act.1

6/15
前へ
/207ページ
次へ
アルバイトの子と一緒にやってきたのは、制服に身を包んだ警察官達。その一人が制帽をクイッと上げて、この場にそぐわない爽やかな笑顔を見せた。 「お待たせしてすいません、寺田店長。」 「じっ、神宮さん!いえ、そんな」 明らかにホッとした表情を見せる店長に、思わず苦笑いしそうになるのを堪えた。 「おっへぇんだよ!職務怠慢じゃねぇか!」 「あらぁ、随分酔われてますね」 その警察官は慣れた様子で酔っ払い男の暴言を軽くあしらう。 彼の他に来ていた警察官数人が、さり気なくその男を囲うような動作を見せた。 「お疲れ様、中川さん」 私にだけ聞こえるような小声だったけど、語尾に音符でもつきそうな感じの軽さだ。 ペコリと頭だけ下げると、私はお子さんと女性に笑顔を向けた。 その後は、警察の人達にお任せ。簡単に事情を聞かれたりの何だかんだはあったけど、結局酔っ払いおじさんは連れていかれた。 もちろん、女性にはお咎めなし。 「ベビーカーは仕方ないけど、あぁいう手合いにはまず近づかない方がいい」 ってアドバイスされてて、警察の人達や私に何度も頭を下げながら帰っていった。 「本当に、ありがとうございました!」 「いえ、私は何も」 「そんなことありません!あなたがずっと庇ってくれていたから、私とても心強かったです!」 最後に、そう笑ってくれて。 私も精いっぱいの笑顔でお辞儀をした。 「なーかがーわさんっ」 お客様を見送った後、ポンと肩を叩かれる。 「お疲れー」 「神宮さん。お疲れ様です」 「また、無茶したね?」 満面の笑みでニッコリ言われて、思わず一歩後退りした。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1159人が本棚に入れています
本棚に追加