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「ねえ、蓮見君聞いてる!?」
図書館で向かい合っていた女子学生がイラついた声をあげた。
「聞いてるよ」
予備があるとは言っても、あのシャープペンはどこに行ったのかと、書きものをしているとつい考えてしまって、気持ちがそちらに向いていた。
というより、こんな簡単なレジュメを作るのに何を話し合う必要があるのか。
古典文学の演習とはいえ、こんな課題ひとりで十分だ。むしろその方がやりやすい。
「だからぁ、これが、この段の読み。これが解釈。コピーしてきたから、あたしがこっち書くから蓮見君は」
「……コピーしてきたのをそのまま書くくらいなら、貼り付けた方が間違いがないと思うけど」
「は?」
化粧、それもバサバサと瞬きするたびに音がするんじゃないかと思うくらい分厚くした睫毛が見ているだけで鬱陶しい、学籍番号がひとつ前の橋本という女子は不機嫌そうに眉を寄せた。
「そりゃ、もちろん調べれば何でも出ているだろう。けど、それじゃ意味がないと思う。読みだって全ての本が同じ解釈をしているとは限らない。自分はどう判断するのかっていうのを反映しないと課題をやったことにならないんじゃないか」
「……じゃあ、任せるから蓮見君の好きなようにやってよ」
「それじゃあ二人でやる意味がないだろう」
こっちだって、ひとりでこなした方がよほど勉強になるし気疲れもないけれど。
はぁ、と周りの学生にも聞こえるような溜息をついて目の前の女子は言った。
「だから、あんたと組むの嫌だったのよ。先生が学籍番号順で決めたから逃げようが無かったけど」
「それなら、見解が違うのでこのグループは個人でやらせてくれるようにと教授に僕から頼むよ」
じろりと睨んで、相手は無言で席を立った。
後にはどの文献から持って来たかも分からないコピーが2枚残って、僕はそれを捨てた。
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