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斯くして、僕の探し物は今度こそ本当に手元に戻って来て、不安も焦りも消えたはずだった。
……だった、のだが――――。
『ふみかの言った通りだ』
その言葉がやけに耳に残って。
『ふみか』はどうして気づいたのか。
やはり僕のように芯にこだわる人で気づいたのか。
それとも違う理由だったのか。
想像しようにも、申し訳ないことに僕の中にはすっかりその容姿の記憶はなく、ただぐるぐると『ふみか』を中心に思いが巡るばかりで、探し物から解放されて平穏を取り戻したはずの心は、また新たな問題を抱えることとなった。
「次、橋本」
「橋本さん、お休みでーす」
「発表の日にか?」
「すごい熱があって、行かなきゃいけないけどどうしても行けないって気にしてましたぁ」
内容に見合わない間延びした声で女子学生が言うと、周りがクスクスと笑う。
「じゃあ、次。蓮見」
「はい」
立ち上がると、今度は周囲からひそひそと声が上がる。
何が悪いというんだ。
一緒にやりたくないと言うから、わざわざ教授にかけあって別で発表できるようにしてもらったのに、結局仮病で休むなんて、何のためにわざわざ受験して安くはない授業料を払って大学に来ているのかと。
思うけれど、でも、何が正しいじゃなくて、僕が違うのだ。
僕が白だと思っても、周りの十人が黒だと言ったら黒になる。
世界は、そういうものなのだ。
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