探す

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 ────あれ?  それは、その日2回目の疑問符だった。  最初は15分ほど前。  次の講義の教室に移動して、ペンケースのファスナーを開いた時にいつも使っているシャープペンシルが無かったことに対してのものだった。  まだ時間に余裕があったので、急ぎ2階上の大教室に戻ると、僕が座っていた席には次の講義の、多分上級生の女子学生が座っていたけれど、何か言いかけた僕の顔を見ると 「これ?」 と直ぐに目当ての物を差し出してくれた。 「……ありがとうございます」  おかしな眼で見ることもなく、またすぐに隣の席の学生と話し始めてくれたのは助かった。  面倒なことにならなくて良かった、と思いながら戻り、講義が始まっていざノートを取ろうとした時、2回目のそれは起こった。  芯が硬かった。  昔から筆圧が強く、HB以上の硬い芯を使うと消してもくっきりとノートに跡が残ってしまうのが嫌で、必ず2Bの芯を使っている。  それなのに書き出しだけで硬く、罫線の合間にぎゅっと芯がめり込んだ感触が伝わった。  手に取ってよくよく見ても、確かに中学生の時から気に入って同じ種類を買い換えながら使い続けているもので色も間違いない。  ペンケースには予備も入っているけれど、中身の芯は同じ2Bだ。  狐につままれたような心地になり、次いで物凄い焦りが来た。  どうしてこうなったのか。今すぐにでもあの大教室に戻って確かめたい気持ちになったが、さすがに講義中に乗り込むわけにもいかない。  落ち着かず、教授の声も遠くなり、ざわざわと耳鳴りがし始める。  ああ。  探し物は嫌いだ。  何かを必死に探すのは、自分の身を不安で磨り減らすようで。  5歳の時に両親が離婚して。けれど子供の身にはそんなことは分からず、自分の眼には突然母親が消えたあの日から。
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