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弁当屋
巨大なボウルに一升分の米を入れ、
シンクで、ジャーッと水を入れる。
星川結月は、Tシャツの袖をグイと捲り上げ、頭にオニギリ柄の手拭いを巻き、ジャッジャッと米を磨いだ。
そのせいで更に腕が逞しくなりつつある。
結月は、名前と全く違う見た目にコンプレックスを持っていた。
「お前、女みてぇな名前だなー」
子供の頃、よくそうやってからかわれて、母親に文句を言った。
「だって、産まれた時は本当に女の子みたいに可愛らしかったのよ」
と母親はいつも言い訳をした。
予定外にすくすく育った結月は、身長は180をゆうに超え、高校時代ムキになって記録を伸ばそうとした水泳のせいで、広い肩幅と厚い胸板を持っていた。
そんなゴツイ男、結月は、母親から譲り受けた『薬膳kitchen sora』という名の弁当屋を営んでいる。
弁当屋にしては珍しい、オープンキッチンスタイルで、客の体調に合わせて、話しながら惣菜を決めたりもする。
『美肌』や『冷え性改善』など、薬膳の効能を生かして考えられた弁当が功を奏して、大手チェーン店とは違う客層を掴んでいた。
─────
「ゆずくーん、今日も暑いねえ」
毎日会社帰りに夕飯を買いに来てくれる独身OL、里中彩香。
「暑いっすねぇ。どうしますか?いつもの美肌弁当に暑さ対策の惣菜入れときます?」
結月は、機転を利かせて聞いてみた。
「あ、いいね。どういう惣菜?」
彩香は、キッキンのほうに身を乗り出した。
「これね、リュウガンって言うんですけど、寝苦しい夜とかに摂るとよく眠れるんですよ。
このリュウガンと夏野菜で酢の物にしています」
「へえ、いいねぇ。美味しそう、うん入れといてー。追加料金、払いまーす」
「ありがとうございます。貧血にもいいですよ」
結月は、手早く弁当をパックに詰めていく。
「ゆずくんは、ホント商売上手だわ。」
彩香は、財布を取り出しながら言った。
「あ、そういえばこの間、彩香さんの
会社のOLさん達が来てくれました。宣伝、ありがとうございます」
結月はそう言いながら弁当を袋に入れる。
「あ、ほんとに?また宣伝しとくね」
彩香はニコリと笑う。
「はい、どうぞ。彩香さん特製弁当です」
「ありがとー。ほんとこれが毎日の楽しみなのよね」
彩香は、支払いを済ませて帰って行った。
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