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自宅のアパートまでは恥ずかしくて近くの公園で停めてもらった。
「あの……」
車から降りようとした時に声をかけられて振り返る。
「はい?」
「あ……いや……えっと……すいません。今日は……ありがとうございました」
何かを言いたそうなのに言葉を飲み込んだのはわかったけど、私も聞けなかった。
「こちらこそ……ありがとうございました」
気の利いた言葉が出て来ないことが悔しくて仕方がない。
ブレーキランプが消えて走っていくあなたの車が見えなくなると私はやっとアパートに向かって歩き出した。
紗希ちゃんのように素直に想いをぶつけて甘えられたなら……あなたももっと笑ってくれるのかな?もっと色々お話してくれる?
俯いたままため息を吐いて立ち止まる。
はぁ、と何度ため息を吐いても特に変化はなくてカンカンと古びた階段を上った。
あまり建て付けのよくない玄関を開けて電気を点ける。
狭い部屋の真ん中でうずくまってからゆっくり顔を上げた。
棚の上を見ても変わらない遺影があるだけで、もう祖母は微笑んでいるだけ。何も言ってはくれない。
「寂しいよ……おばあちゃん……」
呟いてみても言葉はそこら辺をただたゆたうだけだった。
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