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お付き合い
スマホが鳴ってのそりと動いてかばんを手繰り寄せる。
『今日はすみませんでした』の文字を見て、私は慌ててそのメッセージを開いた。
いつもの長文。
だが、そこに『もしよろしければ、お付き合いして頂けませんか?』という文字を見つけて涙が溢れた。
お互い告白はしたのに……そういえばそれだけだった。
『本当はしっかり僕の口からと思いましたが、うまく言えずこんな形ですいません』
もしかして、降りる時に飲み込んだ言葉って……あの時のあなたの顔を思い出してギュッとスマホを胸に抱く。
涙を拭って祖母の遺影を見つめた。
フッと短く息を吐き出して画面を開く。僅かに震える手を見ながら唇を噛み締めて通話のボタンを押す。
すぐには出てくれなくて……でも
「は……はい……」
出たあなたの声も震えていて少しホッとした。
「すみません。どうしてもこれはちゃんとお話ししたくて……」
あなたが息を飲むのを感じながら、声を絞り出す。
上擦って掠れた情けない声。でも、これはちゃんと伝えたかった。
「……三嶋さん。私でよければ……お願いします」
「っ……ありがとうございます。……すいません。ちゃんと言えなくて……」
涙声のあなたがこんなにも愛おしい。
実は恋愛は初めてだと伝えたらまさかというか、やはり
「僕もですよ。27にして初めてです」
照れたようなあなたの声が聞こえた。
24の夏。
こうして、私たちの不器用な恋が始まった。
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