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暗雲は消え去り、再び晴れ晴れとした青い空が世界を包んだ。
ザウルは首に巻いていたタオルで汗を拭うと、
「ふう。やっと片付いた」
と、呟く。
すると休む間もなく自分が倒した魔物たちの片付けを始めたのだった。
こうなっても尚、動けない国王軍であったがザウルのもとに駆け寄る者が二人いた。ラジェードとリーザレフだ。
「ザウル」
「え、リーザレフ!? それにラジェードも」
そこでザウルは少し離れたところに国王軍たちがやってきている事に初めて気が付いた。国王や大臣の姿が目に入ったので、少し焦った様子でペコリと一礼した。
「あれ? 凱旋パレードは? 終わったの?」
「魔王がミデカー村近くに出たって言うから心配になってね」
「そっか。ありがとう」
ザウルは久しぶりに帰ってきてくれた幼馴染二人の顔を見ると、少し照れくさそうに笑ったのだった。話したい事は山積みだったのだが、何となく恥ずかしくて魔物の片付けをしてそれを誤魔化そうとしている。
「魔物の後片付け、僕も手伝うよ」
「わ、私も」
「いいよいいよ。長旅で疲れてるだろし、また王都に戻るんだろ? パレードだってまだみたいだし、泥だらけになっちゃうよ」
「僕が手伝いたいって言ってるからいいんだ。けど、確かに汚す訳にはいかないから、そこの君の替えの作業着を貸してくれ」
仕切り用の木杭に掛けてあったザウルの予備の作業着を勝手にとると、ラジェードは鎧を外して服を脱いだ。
その様子を見ていた騎士たちはどよめきたった。キルトの下着を付けて肝心なところは隠れているとはいえ、うら若き乙女が目の前で肌を出しているのだから仕方がない。
案の定、ラジェードはリーザレフに窘められていた。
「え…ラジェードって女だったの?」
ボリヴァーは唖然としながらぼそりと声を漏らした。
「あんた、一年近くも一緒に旅してて気が付かなかったの?」
「…ぜんぜん」
「だっさ」
勇者と聖女は元より、事実上、国と世界とを救ったザウルがせっせと戦いの後始末をしているのにばつの悪さを感じたのか、騎士団の騎士たちは一人また一人と魔物や荒らされた畑の手入れなどを手伝い始めた。
そうすると、ザウルの手際の良さと常人離れした体力とに再び感嘆の息が漏れるのであった。
「おい、リーザレフ。力仕事むいてないんだから、無理するなって」
「そうそう。僕とザウル君に任せておきなよ」
「二人きりにさせられない…」
ひいひいと肩で息をしながらリーザレフはニタニタ顔のラジェードを睨みつけた。けれどもラジェードはどこ吹く風で、ザウルの傍にくっついている。
「それよりも本当に王都にすぐ戻らないなら、ご飯作ってもらいたいんだけど。やっぱりリーザレフの作った料理食わないと、オレ本調子が出ないよ」
(((アレで本調子じゃなかったのか…)))
ザウルの声が聞こえた連中は皆でそう思っていた。
その言葉を聞いたリーザレフは曇っていた顔が一気に明るくなり、溌剌として言う。
「任せといてっ。とびっきり美味しいの作るから」
「そ、それなら僕も…」
何やら得も言われぬ危機感を覚えたラジェードは、リーザレフについて行こうとしたが、ザウルに呆れたように止められる。
「…いや、お前の料理はいいや」
「くっ」
試合に勝って勝負に負けた様な気になったラジェードは悔しそうにリーザレフを見た。そこにはとても聖女とは思えないような黒い笑顔のリーザレフがいた。
それでもツカツカと歩み寄って、小声で耳打ちする。
「リーザレフ。何度も言うけど、僕は諦めないからね」
「! 私だってっ」
何を話しているのかはよく分からなかったが、無事に幼馴染二人が帰ってきてくれたことがザウルはこの上なく嬉しかった。そんな二人のやりとりをほんの少しだけ笑顔で見ていた。
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