はぐれ農家は片田舎で世界を憂う

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はぐれ農家は片田舎で世界を憂う

「それじゃ、行ってくるね。ザウル」  片田舎に似合わぬ上質な聖職の衣に身を包んだ少女は告げる。 「ああ・・・気を付けてな。リーザレフ」  片田舎しか似合わない泥だらけの作業服を着た少年は、そう返事をした。  ◆  ここは王都アリナミド。  大陸最強と謳われる軍と兵士と魔術師を有する軍事国家である。  アリナミドの城下町はかつてないほどの賑やかさを見せていた。年に一度行われる祝祭でもここまで盛り上がることはない。それでも人々は熱気を持ち、現在闘技場で行われている、ある一つの大会の結果に注目していた。  それは魔王討伐のために、勇者一行に加わる最後の一人を決めるという、由緒ある大会であった。アリナミドに住まう、あらゆる猛者が集い鎬を削る。興奮しない方がどうかしているというほどの大会なのであった。  闘技場には入れぬほどの人が駆けつけて、最早隣にいる者の声すら聞こえない。  そんな中にあって、闘技場の中にある王室関係者しか入れぬ部屋で静かに憤る男がいた。その部屋の中で唯一似つかわしくない恰好をしている。服には所々が泥で汚れ、片田舎で土を耕している者のにおいが染み付いていた。 「ロナリバ大臣。なんでダメなんですか? せっかく無理を押してまでトーナメントにまで来たのに出場すらさせてくれないなんて」 「わかってくれ、ザウル。其方にはやるべきことがあるはず。国を出て行かれては困るのだ」 「魔王を討伐するよりも、土を耕してろっていうんですか?」 「・・・其方は実に素晴らしい人材だというのはワシが一番よく分かっている。けれども、いや、だからこそ其方を魔王討伐のパーティに入れる訳にはいかん。わかってくれ」 「・・・」  ザウルと呼ばれた青年は押し黙ってしまった。しかし、それが話を納得した上で黙っている訳ない事は誰の目にも明白だ。  その時。  部屋の中にいた兵士たちがにわかに騒めいた。見れば魔王討伐の任を受けた勇者一行が部屋へ入ってきていた。王家の紋章が刻まれた装備を輝かせた一行は、真っすぐにザウルと大臣を目指して歩いてきた。その一行の中にはザウルの二人の幼馴染の姿があり、先程の大会で優勝したボリヴァーの姿もあった。  そして先頭にいた勇者ラジェードが徐に口を開いた。 「ザウル君・・・」 「・・・」  ラジェードはザウルに向かって何かを言おうとした。けれどもそれは後ろにいた連中の笑い声に掻き消されてしまった。 「ははは。やっぱり駄目だっただろう。農民風情がいくら頼み込んだって名誉あるこのパーティに入れるわけないって」 「そもそもこの大会は古の掟に従って、貴い血筋を持つものにのみ参加資格があんのよ?」 「・・・俺にだって、貴族の血は流れているさ」  ザウルは、ぼそりと呟くように反論する。 「ああ、そうだったわ。遠い遠い昔に没落した貧乏貴族の血が流れてたわね」 「やめてくださいクリスティアナさん・・・農民の出身って事なら私だって同じです」  そう言ってザウルを庇ったのは勇者ともう一人の幼馴染である、リーザレフだった。 「そんな事はない。神官が夢で女神直々の神託を得て選ばれた聖女だ。君はある意味、ここにいる勇者よりも大切な要なんだよ。そこにいる落ちこぼれ・・・失礼、ザウル君とは訳が違う」  ラジェードとリーザレフを除いた五人は、蔑み誹る態度を微塵も隠すことなくザウルにぶつけてきた。彼らは由緒正しい貴族の生まれであり、その上さらに才能に恵まれて各々が魔術や武芸の使い手だ。幼い頃から積み上げてきた実績は自信を通り越して傲慢さとなり、片田舎出身の地位も名誉もない癖に幼馴染という理由でラジェードとリーザレフに付きまとうザウルは、さぞ疎ましく見えるのだった。 「止めろ皆・・・ザウル君。リーザレフ君のことを大切に思う気持ちはよく分かる。魔王討伐が終わるまで、彼女には決して傷一つつけることなく、無事にミデカー村に帰ることを誓う。僕たちを信頼してくれ」 「・・・」  リーザレフの事が心配で、一緒に旅について行きたいというザウルの本心は筒抜けだったようだ。そんなに正直に言われてしまうと、ザウルは反論すらできない。 「あーあ、言い包められてやんの」 「だっさ」  再び嘲笑が響いた。  が、それはすぐに収まった。国王が現れたのである。 「国王陛下」  一行の一番後ろにいた大会の優勝者であるボリヴァーがそう言うと、その場の全員がひれ伏した。 「うむ。ボリヴァーよ、先程の闘いは実に見事であった。後に表彰と共に貴殿に正式な魔王討伐の任を与え、勇者一行に同行することを許可しよう」 「有難き幸せでございます」 「ん? そこの平民はなんだ? 誰の許可を得てここに来ている?」  部屋の中にいた者の目がザウルに集中した。それを察すると大臣がいち早く陛下に弁明を入れる。 「恐れ入ります、陛下。この者は勇者ラジェードと聖女リーザレフの幼き頃からの友でございます。別れを惜しみ、ここまで駆けつけましたところ、この二人の請願もあったので私めが特別に許可をいたしました」 「そうか、ならばよい。勇者たちよ。世界の為、国の為、そしてそこな友の為にも自らの役目を果たすのだぞ」 「はい」  そう言って国王は去った。  するとリーザレフがザウルの傍によって、毅然とした態度で告げた。 「リーザレフ・・・」 「私は平気。だから安心して」  ザウルは何も言えなかった。ただただこの場に居たくないという気持ちだけが込み上げて、足を動かした。 「・・・帰る」 「ほらよ」  後ろから袋が飛んできた。それは床に落ちると紐が解けて、金貨が散らばった。 「あまりにも可哀相だから恵んでやるよ。町で一番の店で一番の料理を食って、馬車を使って田舎に帰ったとしても釣りが出るぜ」 「テイトクったら優しい~」 「だろ?」  ザウルは彼らをキッと一瞥すると、そのまま黙って部屋を出て帰路へとついた。リーザレフが後ろから呼ぶ声が聞こえたのだが、どうしても振り返ることも足を止めることも出来なかった。
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