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 確かに結衣子の左手の薬指に指輪はない。でも洗面所を見回すと洗面用具を置く小さめのトレーの上にきちんと置いてあったのが見えた。シャワーを浴びる前に自分で外して置いたのだろう。 「あるよ、指輪。ほら」  手を伸ばして2つの指輪を取り、結衣子の薬指に嵌めてやる。俺の仕草をじっと見つめ自分の指に嵌められた指輪を愛おしそうに撫でた結衣子。ようやく泣き止んだ。俺もひとまず落ち着く。 「どうした? 結衣子」  まだ濡れている頭をそっと撫でた。 「……庵さんが欲しい。消えないように……。赤ちゃん……作ろ……?」  涙に濡れた瞳で真っ直ぐに見つめられ、思わず息を飲む。 「結衣子……」  俺はわかっていなかった。結衣子がどれだけ深く心に傷を負っていたのか。どれだけ俺のことを想っていたのか。  何も分かっていなかった。
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