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 ……本物? それとも幻?  そんな疑念すら抱いた。 「結衣子はこっちに1人で来て、どうやって過ごしてたんだ?」 「……。寺院を見たり、美術館に行ったり……。散歩したり」 「疲れたな。今日は早く寝よう」  タクシーの中で彼と会話を交わしたけど、どこかぼんやりしている。ホテルに着きチェックインを済ませると「先に部屋に行ってろよ。俺、レストラン予約してから行くから」と彼と別れた。  1人で部屋に向かう。半年前と同じ状況、同じ光景。部屋に入ると寝室には大きなベッドがある。部屋を間違えたかな、と心配になった。  ……庵さんと新婚旅行に来てるんだから……間違ってないよ。私は庵さんと本物の結婚式を挙げたんだから。指輪もあるし。これは現実。  そう納得させて荷物の整理を始める。いつも通りスーツケースから濃い紫色のシンプルなドレスを取り出し、クローゼットに掛けた。これは私がロンドンのホテルに来たらまずやる事。そしてドレスを眺めて彼を思い出す。これもいつもしていた事。 「そのドレス、持ってきたんだな。レストランに着て行くのか?」  後ろからフッと小さく笑った彼に話しかけられた気がした。ゆっくり振り返ると彼が自分のスーツケースから荷物を取り出している。  現実……だよね?
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