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「……庵さん」  思わず抱きつくと優しく抱きしめてくれた。もう夢でも何でもいい。彼がそばに居てくれるなら。 「ごめんなさい。ご飯食べに行きましょうか」  濃い紫色のシンプルなドレスに着替えてレストランに向かった。 「ルームサービスにすればよかったな」 「……いえ。大丈夫です。美味しいですね」  私の目の前に存在している彼と食事を楽しむ。いつもこのレストランには1人で来ていた。 『庵さんが向かいの席に座ってくれたらいいのに。また一緒に食事がしたいな』  ずっと抱いていた願望が、現実かどうかわからないけど、今、この瞬間は叶っている。食事を終え部屋に戻るとシャワーを浴びた。1人になると夢なのか現実なのか更に曖昧になる。  ふと自分の左手の薬指を見た時、指輪がないことに気づいた。暗闇に落ちていくような感覚。  ——やっぱり夢だったんだ。  どこから?  絶望感に押しつぶされていく。せっかく彼と会えたと思ったのに。彼と気持ちが通じ合って、彼と体を繋げて、結婚式を挙げて……全部、夢だったの?  せっかく幸せだったのに。また彼のいない日々に戻ってしまった。だったらずっと……夢の中にずっと居たかった。涙が止めどなく流れる。
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