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「結衣子! どうした? 具合悪いか?」
彼の声が聞こえた。まだ夢の中にいるのか、私が作り出した幻影か。
「え……? どうしたんだよ」
もう嫌だ。……また庵さんがいない世界に戻るなんて……。
尚も心配そうに私を抱きしめてくれる幻の彼。
「指輪、ないの。いおりさん、また居なくなっちゃう! やだ。……もぅ、や」
「あるよ、指輪。ほら」
ぁ、指輪。
彼が2つの指輪を私の左手の薬指に嵌めてくれて少し落ち着いた。ふわふわとしていた現実と夢の境がはっきりとする。大丈夫、これは現実だ。それでも……。
これが現実だとしても、いずれ居なくなるんだよ。突然、また会えなくなっちゃう。
不安は消えない。夢でも現実でも結局同じ事。突然居なくなって二度と会えなくなる。また同じことが事が起きる気がしてならない。そんな事はもう嫌だ。
「どうした? 結衣子」
優しく頭を撫でてくれる。何か確かなものが欲しい。消えない確かな何か。あの日、公園で見た親子を思い出した。父親にそっくりな男の子。
「——赤ちゃん……作ろ……?」
「……結衣子。……とりあえず着替えな。体、冷えてる」
視線を逸らしパジャマを手渡してくる。
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