09

8/33
前へ
/249ページ
次へ
「結衣子! どうした? 具合悪いか?」  彼の声が聞こえた。まだ夢の中にいるのか、私が作り出した幻影か。 「え……? どうしたんだよ」  もう嫌だ。……また庵さんがいない世界に戻るなんて……。  尚も心配そうに私を抱きしめてくれる幻の彼。 「指輪、ないの。いおりさん、また居なくなっちゃう! やだ。……もぅ、や」 「あるよ、指輪。ほら」  ぁ、指輪。  彼が2つの指輪を私の左手の薬指に嵌めてくれて少し落ち着いた。ふわふわとしていた現実と夢の境がはっきりとする。大丈夫、これは現実だ。それでも……。  これが現実だとしても、いずれ居なくなるんだよ。突然、また会えなくなっちゃう。  不安は消えない。夢でも現実でも結局同じ事。突然居なくなって二度と会えなくなる。また同じことが事が起きる気がしてならない。そんな事はもう嫌だ。 「どうした? 結衣子」  優しく頭を撫でてくれる。何か確かなものが欲しい。消えない確かな何か。あの日、公園で見た親子を思い出した。父親にそっくりな男の子。 「——赤ちゃん……作ろ……?」 「……結衣子。……とりあえず着替えな。体、冷えてる」  視線を逸らしパジャマを手渡してくる。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1961人が本棚に入れています
本棚に追加