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「庵さん。赤ちゃん——」 「わかったから。……きちんと話をしよう」  小さくため息をついて項垂れ、そのままバスルームを出て行ってしまった。皮肉にもその態度で本物の彼だと、現実だと実感が湧く。私の望み通りの答えも返ってこないし、希望通りの展開も起きない。 「どうして子供作りたいんだ?」  着替えてバスルームを出るとソファーに座る彼から静かに問いかけられた。 「庵さんが消えてなくならないように。またどこかに行っても寂しくないように」 「……わかった」  真っ直ぐに私を見つめる彼に少なからず期待をした。赤ちゃんを作るという事に同意をしてくれた、と。でも……。 「そういう理由なら子供は作らない」  諭すような柔らかさを含んだ瞳で断言した。 「どう、して……」 「結衣子が欲しいのは俺だろう? 子供じゃないよな。俺の何がそんなに不安にさせてる? 俺は結衣子のことが好きだ。離れるつもりもない」  必死に私に訴えかけてくる。 「でも……。また会えなくなっちゃ——」 「なんでそんなこと考えるんだよ。『消えちゃう』とか『どこかに行く』とか。……ふざけるなよ。こんなに好きで仕方ないのに。俺と結婚して、幸せじゃないのか?」  彼の瞳が揺れていた。私への強い気持ちが窺えて苦しくなるほど嬉しい。
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