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その1
「73は21番目の素数で、反転させた数は37で12番目の素数。そして12を反転させた21は3と7の積だ。さらに73を二進法で表すと1001001。逆から呼んでも1001001。これほどまでに完璧で美しい数字はないよ」
偉そうに語っているが、これはドラマのセリフで、こういうのを平気で語れるのが織部真澄なのだ。
そもそも教えたのは私で、中学時代にハマっていた海外ドラマを紹介したのだ。真澄は本も映画もドラマもまったく見ない。しかし数学に関すると一言添えれば見るのだ。科学者とか、数式とかが題名に入っていればブラックキャップ並みにホイホイだ。しかし、一つだけ誤算があった。
私こと、花里ななみも数字で表せば73なんだけど。そこんとこ分かってるか、この数学オタク。
「あと有名どころだと1729とか、6174もいいよね。あ、6174はカプレカ数っていうんだけど、」
私は今、告白されている真澄を観察するために公園にいた。落ちかけた陽で伸びる影に気をつけながら、会話が聞こえる絶好のポジションにいて……要は盗み見をしていた。
つまらないうんちくを聞かされ続けていた女の子が真澄のそばをそっと離れ、近くのベンチに置いていた鞄を熊が鮭を捕るようにひっつかんだ。
「もういい!」
そのまま泣きそうな顔を隠れているはずの私に向けたような気がした。
「いるんでしょ、知ってるんだから!」
かさっと音を立ててしまった。すると目の焦点があったかのように真っ直ぐ見据え、こちらに近づいてきた。
「あんた真澄くんのなんなの! あんたが……っ!」
叩かれそうな勢いのまま、行き場のないであろう怒りは足音に収束されていた。肩を上げながら速足でいなくなる。
確か同級生だったはずだがクラスは違うからはっきりはしない。だから忘れて新しい恋ができるように祈っておいた。
「なむなむ……」
「……なにやってんの?」
手をこすり合わせているといつのまにか真澄が目の前にいた。しわの寄った眉間と高圧的な態度。数字を語っているときとは大違いだ。
「供養」
「は?」
「名前はわかんないけど、たぶん同級生でたった今振られたかわいそうな女の子の恋心を」
「あ、同級生なの?」
「さあ」
真澄もわかっていない。そんな程度の女子がよく告白なんて大それたことをしたもんだ。
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