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その15
ライヴ会場は2階の大ホール。絶望的に遅いエスカレーターを一気に駆け上がる。
「…あれ。」
2階に到着して、すぐのソファーにパンクスが座っていた。
(レイダーライダーの大川だ。)
メジャーにも一時期在籍していた、有名パンク・バンドのヴォーカリストだ。この辺が地元だとは聞いてたけど、実際に会うのは初めて。
ソファーに腰かけて、スポーツ新聞を読んでいる。
「オオカワーッ!」
止める暇もなく、ユウジが叫んだ。
大川はちょっと新聞から目を離して、こっちを見て、それから手を振ってくれた。
俺たちも振り返した。今度は、全力で。
「行こうぜ!」
ユウジの声に、俺たちは「Aホール」と書かれた方へ向かって進み出した。もう走る距離じゃない。すぐそこだ。
大ホール特有の大きな両開き扉の向こうから、わんわんという音が押し寄せてくる。
横にはグッズ売り場があるけど、買い物客は誰もいない。そりゃそうだ、今は買い物どころじゃない。
「なあ、アニキ。」
歩きながら、ユウジがポツリと言った。
「なんだよ。」
「大川、何で新聞読んでんだろうな。」
俺はちょっと振り返って、ソファから覗く大川の後頭部を眺めた。
「分かんねえ。」
「“ズギューン!”観ねえのかな。」
「さあ。」
さっきの男の人が後ろから俺たちを追い抜いて、扉を開けて会場に入っていった。一瞬、爆発したような音と光が漏れてきて、すぐに消えた。
早く、俺たちも!
俺とユウジは同時に扉の前に着き、それから深呼吸をして、せーのでドアを開いた。
さあ楽しもうぜ!
ズッギューン!!!!!
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