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その3
遠山君は、弟のユウジに言わせると「憧れの先輩」らしかった。
この場合の憧れとは、もちろん「不良の」ということだ。
1つ年下のユウジは俺よりも体が大きく、足も長く、進学した別の高校ではバスケ部に所属し、そして何よりも「不良」の類だった。
俺と違って、頭にくると手が先に出るタイプ。ビビッて何もできない俺よりも、はるかに不良向きだ。
手が早すぎて停学を2回食らっていたが、彼らの世界では、それは勲章に値するらしかった。
そのユウジが「憧れ」という遠山君。
確かに、本能だけで動いているような輩と違って、彼は分別のある男だという評判だった。
だからといって不良には違いない。
何が待っているのかは、分からない。
俺と遠山君との接点は、今まで1回だけしかなかった。
俺がイヤホンで音楽を聴きながら登校していると、正門前で遠山君と一緒になった。
生活指導の教師にイヤホンを取り上げられないよう、カバンの中に入れようとする俺を制するように、遠山君が話しかけてきた。
「フナちゃんてさあ、パンク好きなの?」
今まで話したこともない不良から、いきなりそんなことを言われて、俺はどぎまぎした。
「う、うん。」
「そうなんだ。いま、何聴いてたの?」
タイミングの悪いことに、その時に聴いていたのはヘヴィメタルだった。
「あ、これはメタル。」
「そうなんだ。」
遠山君は俺のイヤホンを取り上げると、耳に当ててちょっと聴いていた。彼にはあまり興味の持てない曲みたいだった。
「ふーん。」
そう言って、彼はイヤホンを返してきた。
「じゃあね。」
それが接点の全てだった。
好意でも敵意でもない。好意だったら、その後も続きがあったと思う。
知らないうちに、何かやらかしたのか。
俺はちょっと吐きそうになりながら、遠山君の後についていった。
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