その1

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その1

「フナちゃんさあ、ちょっと話あるんだけど。」 隣のクラスの遠山君から声をかけられた時、俺は正直に言って、ちょっとビビっていた。 遠山君は、いわゆる不良のグループに属していたからだ。 実は俺も、高校に入学した頃には不良に憧れていた。ちょっとワルぶって、カッコつけてみたかった。 なので、小学校時代の友達のお母さんがやっている洋服お直しをお願いして、制服のズボンの裾を細ーくしてもらった。何だかいい感じだと、意気揚々とそのズボンを履いて学校へ行った。 数日して、俺は不良グループからトイレに呼び出された。その時になって、俺はやっと「不良になろうとすると、他の不良にケンカを売られる可能性がある」と気づいた。 不良たちはトイレに4~5人たまっていて、俺の他に、もう一人が呼び出されていた。身体がでっかくて赤ら顔のやつが、俺に暑苦しい息を吐きかけながら「お前さあ、そのズボン、やめた方がよくね?」と言った。 俺はほとんど無意識に「うん、ちょうどやめようと思ってたから…。」と、死ぬほどカッコ悪いウソをついた。俺はそれで解放された。 もう一人のやつは、なかなかトイレから出てこなかった。俺は自分が死ぬほどダサいと思い知ると同時に、殴られたりしなくて良かった、と密かに安堵した。
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