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輝光とその兄、そして僕は帰りの車中も、ほとんど会話はなかった。ただ、輝光の兄の名前が"陽煜さん"だということを知った。
そして、うちについて、僕がただいまと玄関の扉を開けたら、蘇芳がお腹を抱えながら出迎えた。そして、陽煜さんを見てうっとりと甘えた声で
「遅いから、待ちくたびれた」と、拗ねた様子で
凭れかかっている。
僕はその様子に、違和感しか抱かなかった。
蘇芳、おまえの番は、輝光じゃないのか?……
ことの真相は、蘇芳のお腹の子供は陽煜さんの子供で、輝光との子供ではない。
輝光の兄の陽煜さんは、長いこと家の嫡男でありながら、家を継ぐ資格を、なくしていた。輝光と
陽煜さんは年齢差10歳。陽煜さんが18のとき家に反発してその時付き合っていた女性と駆け落ちしたのだ。その後、2人は価値観の違いや、西ノ原家の妨害により別れることになってしまったのだが。結局27のとき陽煜さんは家に戻り、家督を継ぐことになった。
そんなとき、すでに番が決まった次男輝光。
西ノ原の家は、焦ったのだ。長男に跡継ぎがいないのに、いや番すらいない状態で万が一、次男に先に子供が出来たら…………
そして秘密裏に次男の番の蘇芳を長男にあてがう、という一見非人道的な措置を取ることにきめたのだ。しかし本人達の同意がなければ、流石に実行するのが、無理であろう計画だが、輝光はアッサリと了承したのだ。その代わりに蒼を必ず自分の伴侶にしてくれと。一度は逃げられても、2度目はないと。
しかし、蘇芳は、泣き叫んだ。
"そんなことしたくないっ。僕は、輝光がいいんだ"
一周りも、年齢差のある人の番に、なんてなりたくないと。しかし陽煜さんに会うと、呆気なく初めてのヒートを起こし、そのまま陽煜さんの手に落ちていったのだ。
すべての事情を、聞いてもなお、榊の家を離れていた蒼には、他人事のようにしか感じられなかった。
だけど、そのあとに続いた、輝光からの言葉に動揺を覚えた。
「榊 蒼。僕の伴侶になって。
君にオメガ性がなくても、どうしても諦めきれない。
君と会ってから、ずっと燻ってるやりきれなさを昇華させて」
この、いつも不遜な態度を、崩さない男が、
人に乞われることはあっても、人に乞うことはないこの男が、いま、膝をつかんばかりに僕の目の前で頭を垂れているのだ。
これから、進学する大学にも自分も行くことになっていると付け加え、決して君の将来の夢を邪魔したりしないから。どうか、傍にと。
あの、仄暗い禍々しい雰囲気は和らぎ、
ただ、自分の存在を乞い願う男の姿に。流石の蒼も
嫌だと言えなくなってしまった。
「僕は、まだ、君のことか好きかどうかもわからない。それでもよければ、お付き合いから始めてもらっていい?」
ほんとは家同士の取り決めなら蒼には拒否権はないのだが、彼が譲歩してくれていることが、なにより嬉しかった。
そうして、僕たちは新しい関係性になって、
大学生活を共にスタートさせ、僕が彼に恋心を抱くのはまた別の話.........
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