純白を纏う

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 目を合わせようとその碧眼を見つめても、焦点の定まらないその目と視線が合うことはなく、真白の唇は小さく震え、うわ言のように何かを小さく、繰り返し呟く。本人の意識は別の場所を向いているのか、何度呼びかけてもその目はこちらを見ない。  その姿に、俺の心はピシリと音を立てた。それはまるで自分が立つ凍った地面に、ヒビが入ったような恐怖感に似ている。 (やっと、やっと見つけたのに。俺の、俺だけの、)  このまま、失ってしまうんじゃないかという恐怖が脳裏をよぎる。そのせいで言葉に詰まり、何も言えなくなった。 「たすけて」  ハッと我に帰る。どれだけ小さく、本人も気づいていないようなその言葉でも、俺の耳にはなによりも鮮明に届いた。  小さく身体を震わせ、肉食動物に狙われた、か弱い小動物のように縮こまる真白。  気づけば、俺は先程よりもしっかりと真白の名前を呼んでいた。 「真白」  何度目だっただろうか。ハッとしたように真白は、俺の呼びかけに答えるように視線を向ける。  やっと交わった視線に、いつの間にか強張っていた表情から力が抜ける。安堵とともに、まだ少しゆらゆらと視線を揺らす真白に言葉をかけた。 「そう、俺を見て。大丈夫、心配ないよ」  ゆっくりと、なるだけ優しく。もう真白が怯えないように、俺だけを、見つめてくれるように。そう願いながら、言葉をかける。  真白の美しく澄んだ碧眼がしっかりと、真っ直ぐに俺の目をとらえる。その瞬間、俺の心は歓喜で溢れた。 「よくできました」  気づけば口にしていたその言葉は、真白の表情を緩ませていた。その目に宿る熱に、溺れそうになる。
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