純白を纏う

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「ごめん、俺なんか悪いことしちゃったかな」 まだ僅かに乱れた呼吸のままそう言った。戸惑うように揺れる碧眼。僅かに浮かび上がる汗の雫が涙のように彼の頬を伝う。太陽に照らされた金髪は消えてしまいそうなほど淡い輝きを放ち、光を透かすようなその肌が淡く今にも消えてしまいそうで。 怖くて思わず目を伏せる。手は僅かに震えていた。けれど、やっぱりどうしても、消え入りそうな彼を繋ぎ止めておきたくて。じっとその瞳を見つめた。 澄んだ色の碧眼が、俺の瞳と合わさる。 「いや、別に・・・」 けれど俺の視線から逃げるようにそう言って彼は視線を彷徨わせた。それを見て俺は一歩踏み出し、ゆっくりと彼に近づく。 そんな俺に怯える子犬のような顔を向けてくる。そんな表情を見て俺は一定の距離感で立ち止まった。 「あー、その、怖がらせたならごめん」 伏せそうになった視線をグッと持ち直して真っ直ぐ彼を見つめる。今度は逸らされる気配のない瞳にどこか安心した。 「俺の名前は、花月 愛(かつき ちか)」 「君の名前を教えて」 気づけばそう口にしていた。ドクドク、と心臓が脈打つ。緊張する心とは反対に身体は落ち着いていた。 「夏生(なつき)真白(ましろ)」 彼の口から出たその名前に嬉しくて笑みが溢れた。そして彼に手を差し出す。 「仲良くしよう。真白」 心臓の高鳴りが全身に響く。目の前の彼が一歩ずつこちらへと向かう。そして近づいた距離に差し出していた手を握られる。その手を優しく握り返した。 「愛って呼んで、真白」 嬉しくて嬉しくて目の前の彼を見つめる。溢れる笑みは今までで一番自然に顔に馴染んだ。合わさる視線が心地良い。 「ち、か」 「うん」 「ちか」 「うん、愛だよ」 「愛」 「真白」 ありがとう、そう気づけば口にしていて自然と笑みが溢れていく。真白の口から発せられる自分の名前がストン、と心に馴染んで初めて自分の名前が愛おしく思えた。 俺の表情を見た真白はふわりと笑った。その可愛らしい笑みを見て心が高揚した。 けれど、一瞬のうちに真白の表情は曇っていく。突然震えだす身体と合わない視線に不審に思う。それと同時にとてつもなく怖くなった。 握っていた手を振りほどかれる。それほど強く握っていなかったその手は簡単に離れていった。荒い呼吸を繰り返す真白はふらふらと後退りする。うまく力の入っていない足はふらついてペタリと座り込んだ。 「真白、」 心配で手を伸ばしたけれど、目の前の真白は何かに怯えていて思わず伸ばしかけていた手を止めた。その代わりにしゃがみ込んで、真白に目線を合わせる。 「俺が、こわい?」 問いかけた言葉は、誰の為だったのだろう。
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