純白を纏う

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「ここは暑いからとりあえず戻ろう」  俺の言葉に頷いた真白を、扉を開けて待つ。お礼を言って中に入った真白に続けば、日差しが無いせいか幾分か涼しさを感じる。  扉横の日陰に置いておいたサンドイッチを取り、ひと足先に階段を降りて行った真白の後ろを、追いかけるように降りると、すぐに隣に並んだ。すると突然、何かを思い出したかのように真白が立ち止まる。 「どうかした?」  その問いかけに、真白は少し眉を下げてなんとも言えないような表情で答えた。 「いや、そういえばサンドイッチ……」  次第に言葉尻が消えかかり、口を閉じた真白の表情には、これまたなんとも言えない悲壮感が漂っている。  その愛らしさに自分の表情が思わず緩むのを感じた。そしてその表情を隠すことなく、真白の目の前に例のサンドイッチを差し出す。 「これのこと?」  ニコニコと笑みを浮かべる俺と、突然戻ってきたサンドイッチを見比べ、真白は目を丸くして驚く。 「いつの間に……」 「ちょっと崩れててごめんね」 「いや、それは俺が落としたんだし、……ありがとう」 「どういたしまして」  少し恥ずかしそうに、その頬をほんのり赤く染めてお礼を言う真白に、心がじんわりと暖かく、羽毛のように柔らかくくすぐる。  静かな校舎内。二人の小さな足音だけが響き、遠くの方で僅かに授業を行う教師の声や、外で体育をする生徒の声が聞こえる。予鈴がなったことにも気づいていたし、授業よりも真白の体調を優先したい俺には、既に始まっている授業に対して焦る気持ちは全くなかった。 「授業はじまっちゃってるかぁ。どうする?お昼まだでしょ?どっか空き教室入って食べる?」  何気ない提案。何よりもまだ少し顔色の悪い真白と離れたくなくて、気づけば少しずるい聞き方をしていた。そんな俺を知ってか知らずか、真白は少し間をおいて頷いた。  いくつか空いている今は使われていない空き教室の一つへと入る。締め切られていたせいなのか、少し埃っぽいそこにしまった、と少し顔をしかめる。 (真白にこんな汚い空気、吸わせるなんて)  篭ったような臭いに顔をしかめつつ、素早く窓に手をかけ新鮮な空気を入れるため、窓を開いた。  生ぬるい風が頬を撫で、教室へと入り込む。埃っぽさがスッと流れるように消えていく。それに安堵の息をつく。
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