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「あの……黒澤……」
小さな声で遠慮がちに名前を呼んでみるが、黒澤は腕の力を緩めてはくれない。
晴れて両思いになった二人は、衝動的に強く抱きしめ合った。
嬉しくて嬉しくて離れたくないと、誠もたしかにそう思った。
が、しかし、さすがに腕が痛くなってきた。恋人同士というのはこんなにも長く抱擁し続けるものなのだろうか。
恋愛経験値がゼロな誠には、抱擁をやめるタイミングすら正解がわからない。
──だけど、そろそろ腕が限界だ。それに……
「そろそろ……顔見たいんだけど……」
誠がそう言った途端、黒澤の腕の力が緩む。
誠も腕を解き、黒澤の顔を見上げる。
そこには見たことのない表情を浮かべる黒澤がいた。
少年のように楽しそうに笑う彼でも、少し大人びた優しい笑みを浮かべる彼でも、子供のように拗ねて怒る彼でもない。
どごか虚げな、でも強く激しい熱っぽい表情。
男らしい表情、いや、雄を感じさせるという表現がしっくりくる。
そんな表情で自分のことを見つめている。
──これはまずいかも……。
視線を逸らそうと思ったが、もう手遅れだった。
黒澤の両手によって、誠は顔をホールドされる。
「今のは誠が悪い」
「なっ……んっ……！」
急に唇を奪われ、頭が真っ白になる。唇にも身体にも痛いくらい力が入ってしまう。
息の仕方が分からず、黒澤の胸を押して必死に抵抗する。
そんな誠の様子を見て、黒澤が唇を離す。
「ちょっ……！ い、いきなり何すんだよ！」
「あんな可愛いこと言われたら我慢できるわけないだろ。てか、俺が今までどんだけ我慢してきたと思ってるの」
──我慢って……。
黒澤の言葉を聞き、誠は急に実感する。
両思いになったということは、つまりそういうことをする関係になったということだ。
キスをする関係……もちろんその先も……。
考えただけで、身体が熱くなり、息をするのが苦しくなる。
緊張でおかしくなりそうだ。
そんな誠に黒澤は不安気な表情で問いかける。
「嫌……だった？ 気持ち悪かった？」
「そんなわけない！」
そうだ、嫌なはずがない。
好きな人に触れたいと思うのは当たり前のことで、誠も黒澤に触れたいと、強くそう思っている。
だが、意思と身体は必ずしも連動するわけではない。
黒澤とそういうことをしたいと思ってはいるのに、いざ、触れられると緊張のあまり身体が硬直してしまう。
誠にとっては、抱擁も、キスも、もちろんその先も、何もかもが、はじめてだからである。
そんな情けないことを本当は黒澤には言いたくないが、このままでは不安にさせてしまう。
思ったことは全て言う、ついさっき誓ったことをさっそく実践するときが来たようだ。
信用しているからこそ、自分の気持ちを素直に曝け出すんだ。
「察してるかもだけど……俺、全部はじめてで……。だから緊張して……つい反射的に抵抗しちゃうんだ……。でも本当は嫌なんかじゃない。俺も黒澤に触れたいって思ってる」
告げる内容があまりに不甲斐なくて、顔が上げられない。
そんな誠を再び黒澤が優しく抱きしめる。
「嬉しい。ほんとにほんとに嬉しい。誠のはじめてが全部俺なんて、叫び出しそうなくらい嬉しい」
「黒澤……」
「誠、力抜いて」
黒澤はそう言うと、再び唇を寄せてくる。
キスされる。今度はそう分かっていたが、やはり緊張を解くことはできず、身体に力が入ってしまう。
「……ひゃっ」
突然、首元を触られ、思わず変な声が出た。
その瞬間、誠の唇を割り入って、黒澤の舌が侵入してくる。
熱くて、柔らかいものが口内で蠢き、何も考えられなくなる。
「……ん……ふっ……」
上手く息継ぎができず、時折、自分の息と声が混じったような音が漏れ出てしまう。
黒澤の舌の動きはどんどん激しくなっていく。貪るように誠の口内を隈なく動き回り、深く差し込んでくる。
「んぅ……ふっ……んっ」
その動きと連動するかのように、誠の口からは声が漏れ出る。
──もう……頭おかしくなりそう……。
しかし、身体の力は抜けていた。というか力が入らなくなってきている。
やっと解放され、肩で息をしている誠の耳元で黒澤が囁く。
「誠……俺の部屋行こう……」
「……え？」
「その……ほら……俺の部屋のベッドの方が広いから」
その言葉はこれからキス以上のことをする、ということを示している。
心臓が動きすぎて痛い。正直、怖い気持ちの方が強い。
でも、それでも、答えは決まっている。
誠はゆっくりと首を縦に動かした。
黒澤に腕を引かれながら隣の部屋へと移動する。
誘導され黒澤のベッドに腰掛けると、再び深いキスが襲ってきて、そのまま優しく押し倒される。
「……んっ！」
キスをしている最中に、黒澤の手がシャツの中に侵入してくる。
くすぐったいような不思議な感覚に、たまらず誠は首を横に振ってしまう。
「……やだ？」
耳まで真っ赤にしている誠に、黒澤は捨てられた子犬のような瞳でそう問いかけてくる。
誠はその顔に弱いのである。
「……や……ではない……」
「よかった」
黒澤の手が再び誠のシャツに侵入してくる。優しく肌を撫でるように、腹の辺りから次第に上へと移動していく。
「んっ……」
胸の突起に触れられた瞬間、吐息混じりの声が出る。恥ずかしさから誠は手で口を覆う。
そんな誠を見て黒澤は、なんだか意地悪な笑みを浮かべている。
「声、我慢しなくていいよ」
そう言うと、黒澤は再び、誠の胸を愛おしそうに触れ出す。突起の周りを撫でられたり、摘んだりされ、首元にはキスの雨が降ってくる。
「……んっ、ぁ……」
くすぐったいような、痛いような感覚に、堪らず甘ったるい声があふれ出てしまう。
恥ずかしさで今にも頭が爆発しそうだ。
そして、下も爆発しそうである。
黒澤に触れられる度、下半身が熱くなり重たくなっていくのを感じる。
元々、自己処理の回数が少ない上に、ここ最近は色んなことがあったせいで、しばらくご無沙汰だった。
そのせいもあり、これまでの反動で下半身に一気に熱が押し寄せてくる。
黒澤は慣れた手つきで、誠のシャツを脱がす。
これまでは何も気にせず、黒澤の前で着替えていたのに、今は自分の裸体を見られることが酷く恥ずかしいことのように思えた。
──俺だけ恥ずかしいなんて不公平だ……。
「……黒澤も脱げよ……」
「……うん」
黒澤は勢いよく着ていたシャツを脱いだ。黒澤の動作がいちいちカッコよくて、エロくて、変な気持ちを加速させられる。
黒澤はパッと見は細いのに、腹には筋肉の凹凸が綺麗に浮かび上がっている。肩幅も意外と広く、男らしい体つきだ。
自分の白くてひょろひょろな体が、さらに情けなく見えてくる。
結局、誠の羞恥心が増しただけだった。
「誠……。なんかどうでもいいこと考えてるでしょ。俺に集中して」
「え……わっ！」
黒澤は誠の胸元に舌を這わせる。
視界的にも感覚的にも衝撃的で、誠は快感よりも困惑が勝ってしまう。
「ちょ……やめっ……そんなとこ舐めなんなよ……！」
しかし、そんな誠の悲鳴はまるで黒澤の耳に届いていない。黒澤は無言で舌を這わせ続ける。
「おい……聞いてんのかよ……。おいって……んっ……」
徐々に胸元の違和感は快感へと姿を変え出す。そして、突起に温もりを感じた瞬間、小さな電流のようなものが身体に走った。
「あっ……やっ、んっ……ぅ」
頭がボーッとしてきて、脳が溶けそうだ。
しかし、次の瞬間、強い衝撃が走り、一気に脳が覚醒する。
「あっ……！」
熱が集まり、今にも爆発しそうな誠の雄に、黒澤が布越しに触れてきたのだ。
「誠……こっちも……いい？」
「まって……今は……だめ……！」
「なんで？」
「今は……やばいから……落ち着くまで待って」
そう言いながら茹で蛸になっている誠を見て、黒澤は吹き出した。
「なに笑ってんだよ！」
「ごめんごめん。いや……だって普通、興奮してるから触るんでしょ？ 萎えるまで待ってどうすんのさ」
黒澤はそう言っている最中も、込み上げる笑いを堪えてるようだった。
──たしかに普通はそうなのかもしれないけど……でも、そんなはしたない状態を見られたら……自分は恥ずか死んでしまう。
「まぁ、でもとりあえず、そうゆう理由なら触らせてもらうね」
「は！？ うわっ……ちょっ……待って！」
黒澤はまたも慣れた手つきで、魔法のようにするりと誠のズボンを脱がした。
露わになった誠の下着の中心には、すでにうっすらシミができていた。
「や、やだ……」
あまりの恥ずかしさに誠は自らの目を両手で塞ぎながら、半泣きで言う。
黒澤は、そんな誠の頭をポンポン、と優しく撫でた。
「誠。恥ずかしいことじゃないよ。大丈夫だから俺のこと見て」
子供を宥めるように言われ、なんだかこのままの方が恥ずかしいような気がして、誠はおずおずと手を離した。
目を開けると、黒澤の優しい瞳と視線が絡まる。
「余裕ぶってるけど、実は俺もすっごい緊張してるし、興奮してる。だから、誠も同じですごい嬉しい」
「う、うそだ……」
「ほんとだって。ほら」
そう言うと黒澤は誠の手を掴み、自身の雄へと誘導した。
誠以上に熱くて、昂ったものに触れ、ただでさえ速かった鼓動がさらに駆け足になる。
「ね。俺のも爆発寸前なの。でも、無理強いはしないよ。慌ててすることでもないからね」
黒澤はそう言って優しく微笑んだ。
その瞬間、誠は今すぐにでも自分をぶん殴りたい衝動に駆られた。
また、自分のことしか考えていなかった。黒澤はこんなにも誠を慮ってくれているのに。
黒澤の心も身体も受け入れたいと、強くそう思った。
「……したい……黒澤と……」
何をとは言えない、チキンで意気地なしの自分が心底嫌になる。
それでも黒澤はやっぱり分かってくれる。
黒澤の手が誠の雄に優しく触れ出す。
「……んっ、ふっ、あっ……」
自分で触るのとは比べものにならない程の強い刺激に、再び涙が出る。
黒澤はそんな誠の頭を撫でながら、次第に手の速度を速めていく。
「うっ、や、あ、あっ……！ もう……く……くろさわっ」
「誠、大丈夫。出していいよ」
「んっ！」
黒澤の手の中で、誠の雄が弾ける。
吐精した瞬間は解放感でいっぱいだったが、上がった息が整う頃には、恥ずかしくて死にそうになっていた。
でも、ここで止めるわけにはいかない。
「俺もする」
誠はそう言って、震える手で黒澤のズボンを脱がし、下着に手をかけた。
しかしそこで、黒澤に手首を掴まれ、阻止される。
「な、なんで！」
「俺のは今日はいいから。それより……こっち触らせて」
黒澤の指先が、誠の後ろの蕾に触れる。思わず身体がビクンッと跳ねる。
「そ、そこはっ……！」
「……だめ？」
黒澤はまたも捨てられた子犬のような表情で見つめてくる。やはり、その顔に誠は弱い。
それに……黒澤を受け入れるには、もちろん必要な過程なのである。
「……だめじゃないです……」
「ありがと」
そう言うと黒澤はベッドのサイドテーブルの引き出しから、ローションとゴムを取り出した。
当然のようにあることが、これまでの黒澤の経験値の高さを表していて、何とも言えない気持ちになるが、今はそんな自分の感情は無視しておく。
「後ろからのが楽だから」
黒澤はそう言って、誠を転がし、うつ伏せにさせる。
「指入れるね」
「……うっ……っ……んぅ……」
元々出口のその場所に入れられるのは、異物感がすごい。
「ごめん。すぐ見つけるから、ちょっと我慢ね」
そう言いながら、黒澤は誠の中を指で探っていく。
「……うっ、ふっ、うっ……あっ！」
そして、ある一点を黒澤の指が掠めた瞬間、強い電流が走った。
身体がピクンと跳ねる。
「ここ？」
「あっ、あっ、や、やめ……そこ……むりっ！ あっ、んっ」
これまでとはレベルの違う快楽に頭がおかしくなりそうだ。
「指……増やすよ」
「あぁっ！ やだ、やだ、あっ、あっ……」
その場所を触られてから誠の蕾はどんどんと開いていき、あっという間に黒澤の指を三本受け入れるようになった。
強すぎる快楽に、意識が朦朧としてくる。そのせいか、黒澤がいつの間にかゴムを装着していたことに気づかなかった。
しかし、黒澤の最高潮まで昂っている雄が視界に入ると、急に意識が覚醒する。
そして、強い恐怖心が誠を襲う。
それでも、繋がりたいという気持ちは揺るがない。
痛くても、苦しくても、黒澤陽太という人間と深く繋がりたいと、強くそう思う。
「誠……ごめん。挿れたい……」
「なんで……謝んの」
「だって、はじめてだし痛いし、苦しいと思うから……。でも誠と繋がりたい……」
誠と全く同じことを考えている黒澤に、思わず口角が上がる。
「黒澤とならどんなに痛くても、苦しくても、一つになりたい」
「……誠」
黒澤は誠を後ろから抱きしめると、深く腰を進めた。
「ぅあっ……！」
後孔に激しい熱さを感じる。
正直、めちゃくちゃ痛くて、苦しい。
でも、自分の全部が黒澤で満たされているような感覚は心地よかった。
「あっ、あっ、うっ……あっ……！」
そして、黒澤があの一点を突きはじめると、痛みの中に快楽が混じりだす。
「あっ、あっ、やっ、んっ……！ やっ、やだっ
！ あっ、やっ──！」
あまりの強い快楽に、涙がとめどなくあふれ、反射的にやだと言ってしまう。
「誠、ごめん……俺……もう……」
黒澤の腰の動きが速くなる。誠ももう限界だった。
「あぁっ！ あぅ、あっ、んっ──！ くろさわ、くろさわっ……！」
経験したことのない快楽への恐怖心から、黒澤の名前を呼び続ける誠を、黒澤が強く抱きしめる。
中で黒澤のものが痙攣したのを感じると、誠も達した。
全身が痛くて重くて怠い。
それなのに身体のくたくた感とは対照的に、心にポッカリと空いていた隙間が埋まったような、そんな充足感があった。
誠は満ち足りたものを感じながら意識を手放した。
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