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ある日のこと。
よく遊びへ行く河原で、春夫は石を拾った。
なんてことはない石だったが、小学生の春夫にとっては、人間の顔にも見えるそれがとても貴重な物のように思えた。
春夫はその石に「顔面石」という名前をつけ、勉強机のいちばん下の引き出しへ大切にしまった。
翌日、春夫は熱を出して学校を休んだ。
布団の中でうなされながら、巨大な顔面石にゆっくりと押しつぶされる悪夢を見た。
春夫の今までの経験の中で、最も大きな恐怖だった。
熱は下がらず、春夫は三日も悪夢にうなされつづけた。
熱が下がり学校へ行けるようになってから四日後、春夫は顔面石を捨てることにした。本当はすぐにでも捨てたかったが、そんな扱いをしたら祟られるかもしれないと恐れ、なかなか実行できなかった。だが手許にあるという恐怖を我慢することに限界がきていた。
覚悟を決め、もともとあった河原へ石を捨てに行こうと思ったが、ふとその行為を誰にも見られてはいけない気がして、河原ではなく、家の裏手にある空地の奥へ捨てることにした。
誰にも見られないように空地の奥へ着き、春夫は顔面石を投げ捨てた。
コロコロと転がり、顔面石が「顔」のほうを上へ向けて止まった。拾ったとき、どこか可愛ささえ感じた顔が、怒りや憎しみや、その他のあらゆる良くない感情を内包したおぞましい表情をしているように見えた。
春夫は、気がつくと逃げるように空地を飛び出していた。
顔面石を捨ててから、春夫はもう同じ悪夢を見ることがなくなった。
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