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 それから一週間後、学校からの帰り道。  アニメの再放送を観るため家路を急いでいた春夫に、いつのまにそこにいたのか、電柱の陰からぬっと現れた男が、 「君、すまないが、ききたいことがあるんだ」  と言った。  とつぜんのことに驚いて立ちすくんでいる春夫を見下ろした男は、夏だというのに黒いコート姿で、顔はとても青白く、まるでこの世の者ではないように見えた。 「石を探してるんだが、知らないかな?」 「石……ですか?」 「ああ、とても可愛らしい顔に見える石なんだがね」  顔面石のことだ、と春夫は直感した。だがなぜ目の前の男がそれを探しているのかが分からなかった。いや、そんなことよりもそれを捨てた張本人である自分のもとへ男が現れたことがとても恐ろしかった。 「ごめんなさい。知りません」 「ほんとに?」  疑うような目で春夫を見下ろしていた男が、ヌッとその顔を春夫の耳元に近づけた。 「噓だったら、君を連れて行かなくちゃいけない」  男のぬるい吐息が、耳を不快にくすぐる。  連れて行くって、どこに?  向こうって?  頭をよぎる恐怖で膝が笑うのを春夫は感じた。 「ごめんなさい! ごめんなさい! ほんとにほんとに知らないんです!」  男は叫ぶ春夫から顔を離し、ふたたび見下ろすようにして、フッと息を漏らした。 「そうか、知らないか。いや、悪かったね。あれはとても大切な物だから」  男が眉根を寄せ、悲しそうにして言う。それを見てとてつもない罪悪感に襲われたが、春夫は本当のことを言うことがどうしてもできなかった。 「まあ、いいか。時間はたっぷりある」  独りごち、男は考え込むように空を仰ぎ見た。 「……ありがとう。時間を取らせて悪かったね」  動けないでいた春夫にふたたび視線を向け、男が言う。 「くれぐれも言っておくが、石を見つけても拾ってはいけないよ」 「は、はい」 「うん。それじゃあ、私は行くよ」  言って男は向こうへゆっくりと立ち去り、そのまま遠くで揺らめく陽炎(かげろう)の中に消えた。
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