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「ただいま、戻りました」
上官とは一年振りの再会だと言うのに、微塵の喜びも感じなかった。
「しくじりおって」
怒るのも当然だ。1年間の猶予と接触がありながら、結局殺せなかったのだから。だが、これで彼が戦場以外で死ぬことはない。そう信じたかった。
「仕方ない。少々手荒ではあるが刺客を送る」
ある程度予想はしていた。自分がしくじった時点で、代わりが送られるなど分かりきっていたことだった。
だから、僕も自分の運命に逆らってみることにしたの。
そう心で呟き、懐から短剣を出す。
そして、上官の胸をひと刺し。生ぬるい血が頬に飛び散る。胸に刺した短径を強引に引き抜き、血を振り払う。頬の血を拭った頃には、すでに辺りは憲兵に囲まれていた。
斬らなきゃ。彼は守るには斬らなきゃいけない。
本能のままに剣を振るう。一つ、二つ、三つと命を刈り取る。斬って、斬って、斬って、斬った。どれくらい殺したかわからない。意識が遠のいてきた。だけど、不思議と悪い気分ではない。
僕はいま自分の運命に抗っている。
僕の心は満たされた。もう、探し物は見つけたのだから。
詰まらない人生だったけど、ようやく見つけたの生きる目的を。
もう、剣を握る力すら残っていなかった。
眼前に迫る剣を避ける気力もないし、つもりもない。
やっと死ねる。
心から安堵した彼女の前に突如甲高い音が鳴り響いたのは、そのときだった。
何度も聞いた音だ。剣と剣が正面からぶつかる音だ。
最後の気力を振り絞り、血だらけの頭をあげる。
そこには、圧倒的な殺気を放つ夜叉が一人立っていた。
「うぉぉーー」
剣風が吹き荒れ、憲兵が倒れていく。四方からの殺気に怯える素振りも見せずに、憲兵の四肢を両断していく。
君はバカだよ。
君は大バカものだ。
そう思いながらも、心の底では喜んでいる自分がいる。
彼の剣は僕に勇気を、生きる目的を教えてくれた。
胸が高まる、頬が熱くなる。初めて会ったあの日を思い出す。そうだ、僕はあの日から、出会ったあの日からーー。
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