蛍火

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蛍火

夏の夜よりも濃い闇に浮かんで消えては瞬く蛍が好きだと笑む貴方の影は私の瞳に ふらりゆらりと揺れ飛んで儚く生命を散らす様が鳴きもせずに身を焦がす直向(ひたむ)きな恋慕を示す蛍火が儚さ故に美しいのだと云う貴方の声と言葉は私の胸に いまや(かたわ)らに寄り添うのは夜風に吹かれて騒めく木々と無数の蛍火 そんな私を憐れとお想いでしょうか、問うた声は木立に溶けて余計に胸を締め付けるのです ねぇ貴方 あの蛍火を儚さ故に美しいと云うのなら 私の恋慕も美しいと仰って下さいますか 貴方を連れて征く風を赦せなかった私すらも愛しんで下さいますか いつか戻って来るからなんて嘘ばかり、何も残らないのなら私の心も(のこ)さないで欲しかったのに、貴方はなんて狡いのでしょう 貴方の影ばかりを視るのなら、一層の事なにも見えなければ良かったと想うのです 一陣の風になる事よりも私は貴方が欲しかった、ただ共に()って欲しかった、幾ら仕方のない事だとしても私は貴方を求めてしまうのです ふらりゆらりと揺れ飛んで儚く生命を散らす事が美しいと云うのなら、貴方を奪った蛍火を憎んではいけないでしょうか 散る為に生命を燃やした貴方を視てはいけないでしょうか、この身を焦がすように貴方を求めてはいけないでしょうか ただ、ただ貴方と共に在りたかった 人に非ずと云われても貴方と生きていたかった たった一人、愛する方が灯した蛍火をどうして尊き事だと想えましょうか どうすれば風となる事を赦せましょうか どうして貴方を奪った正義を正義だと想えましょうか どうすれば貴方の面影を追う事を止めれましょうか 書き連ねた想いは貴方に聞いて欲しかった言葉ばかり 溢れた恋慕は身を焼くばかり たとえ蛍火が灯る間だけだとしても貴方に逢いたい 今、貴方のお傍に参ります。
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