灰色のカラスの証明

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「おっともうこんな時間だ」  カラスは我に返ったように空を見上げる。その視線を追うと、いつの間にか空が濃い青に侵食され始めていた。 「オレはそろそろ帰るわ。夜になると何にも見えなくなるからさ」  そしてカラスは「じゃあな少年」と言って、夕陽に向かって飛び立っていった。カラスは眩しくないのかな、と夕陽に目を細めながら思う。 「なんだったんだろう、あのカラス」  夕陽の上に乗った彼の影を見送りながら僕は呟いた。灰色の翼を広げたシルエットは当然のように黒い。その影はどんどん小さくなっていき、やがて見えなくなる。空はもう半分以上、濃い青に染められていた。  静かな公園にひとり残された僕は、右手の縄跳びを両手で持ち直して。  そして勢いよく回す。  ひゅひゅん、と音がして、ぱちっと脛で弾けた。  一瞬後にじわりと熱が広がる。  今日はできないかもしれない。  明日もできないかもしれない。  もっと長い時間、もしかしたら一生かかってもできないかもしれない。  それでもいつか。  いつの日か僕にも証明できたなら、それはきっとすごく嬉しいんだろう。 「……痛いなあ」  遠くの空に沈んでいく今日を眺めながら、僕はもう一度縄を握り直した。 (了)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加