灰色のカラスの証明

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 僕は咄嗟に反応できなかった。  それはカラスが本当に喋っている事実をまだ受け入れられていなかったからでもあれば、「この辺にコンビニある?」くらいの気軽な問いの答えにまったく見当がつかなかったからでもある。白い羽根ってなにさ。   「おい聞いてんのかよ、少年。言葉は聞こえてるはずだよな。まさか、在処を知ってて独占しようって魂胆じゃないだろうな?」  カラスは探りを入れるような口調で言った。このままではあらぬ疑いをかけられると悟った僕は口を開く。 「いや、知らないよ。てかなにそれ」 「まあそうだよな。そんなの探してんのはカラス界の中でもオレくらいだ」  カラスは表情を変えない。しかしどこか誇らしげにそう言った。 「ところで少年はここで何をしてんだよ」 「僕? 僕は二重跳びの練習をしてるんだ」  右手に持っていた縄跳びを少し持ち上げる。体育の授業で僕だけが跳べなかった二重跳び。次の授業までにできるようになろうと誰もいない時間を狙って練習していたのだ。 「そうか、じゃああんまり羽根については見てねえか。練習してんだもんな」 「まあ練習してなくても見てないと思うけど。白だったら何でもいいの?」 「ああ、白けりゃ何でもいい」  カラスはそう言うと、すっと左翼を広げた。そこには先程差し込んでいたものの他にも、いくつも白い羽根が混ざっていた。だから遠目にはグレーに見えたのか。  その羽根をよく見れば、色はすべて白だが形は様々だ。 「アヒルだろうがニワトリだろうが、白けりゃなんとかなる。オレはとにかく白い羽根を探してんだ」  カラスの言葉を聞いて、僕は思ったことをそのまま発した。 「意味がわからない」 「なにがだよ。あ、俺が日本語喋れることか? そんなの人間の近くにずっといれば喋れるようになるさ。お前らだってそうだろ。アメリカに三年住んでればある程度の英語は話せるようになる」 「そういうもんなのかなあ」 「カラスは頭がいいんだ」  彼の理論はどうにも腑に落ちないが、実際こうして僕と彼は話をしている。この結果に理由が欲しいなら信じるしかなかった。 「でもさ、なんでそんなに白にこだわってるの?」 「そんなの決まってんだろ」  カラスは当然だとでも言わんばかりにため息をひとつ吐いて言った。 「オレは白鳥になりたいんだよ」
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