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「白鳥?」
カラスの言葉を反芻する僕に、彼は念押しするように言う。
「そう、白鳥。白い鳥」
「なんで白鳥になりたいの」
「黒いものがあると白くしてみたくなるもんじゃないか」
「変なの」
「少年に言われたくないな。そういうのは人間の本懐だろ。チョコも然りコーヒーも然り」
確かにそう言われれば、僕も黒いものを見ると「これが白くなるとどうなるんだろう」という想像を無意識にしている気がする。カラスも同じ思考なのだろうか。
「それで白い羽根を探してるの?」
「ああ、そうだ」
「無理でしょ」
落ちている白い羽根を拾って、自分の羽の間に差し込む。
そんなのただ自分を飾り付けているだけで、本物の白鳥になれるわけじゃない。いずれその白い羽根は、新しく生えてきた黒い羽に押し出されてまた地面に戻るだけだ。
「人間はすぐそういうことを言うよなあ。まあカラスも大概だけど」
もうそんなの聞き飽きた、とでも言うようにカラスは「やれやれ」と首を振った。
「少年、『悪魔の証明』って知ってるか?」
「知ってるよ。漫画で読んだ」
「なら話は早い。それと一緒だ」
悪魔の証明。
そこに『ない』ことは証明できないという言葉だったはずだ。『悪魔はこの世に実在しない』ということは誰にも証明できない。
「そもそもあれに悪魔なんて名前がついてること自体おかしなことだと思うね。とんでもないよ。オレにとっては希望でしかない。カラスが白鳥になれないなんて証明されてないんだから」
カラスは愛おしそうに自分の灰色の翼を見つめた。
「なれないって決まってないなら、なれるかもしれないだろ」
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