27人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっともうこんな時間だ」
カラスは我に返ったように空を見上げる。その視線を追うと、いつの間にか空が濃い青に侵食され始めていた。
「オレはそろそろ帰るわ。夜になると何にも見えなくなるからさ」
そしてカラスは「じゃあな少年」と言って、夕陽に向かって飛び立っていった。カラスは眩しくないのかな、と夕陽に目を細めながら思う。
「なんだったんだろう、あのカラス」
夕陽の上に乗った彼の影を見送りながら僕は呟いた。灰色の翼を広げたシルエットは当然のように黒い。その影はどんどん小さくなっていき、やがて見えなくなる。空はもう半分以上、濃い青に染められていた。
静かな公園にひとり残された僕は、右手の縄跳びを両手で持ち直して。
そして勢いよく回す。
ひゅひゅん、と音がして、ぱちっと脛で弾けた。
一瞬後にじわりと熱が広がる。
今日はできないかもしれない。
明日もできないかもしれない。
もっと長い時間、もしかしたら一生かかってもできないかもしれない。
それでもいつか。
いつの日か僕にも証明できたなら、それはきっとすごく嬉しいんだろう。
「……痛いなあ」
遠くの空に沈んでいく今日を眺めながら、僕はもう一度縄を握り直した。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!