明日、「Jumpin'・Jack・Flash」の店で

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 そんな大切にしている空間で、別れ話をされたのだ。家までの帰り道、ぽろぽろと涙が止まらなくても、仕方がないだろう。夜の住宅街は10時近くともなれば人気はない。  二十歳を過ぎた女子が、泣きながら歩いていても誰にも迷惑はかけない。だから泣いてもいいだろう。  犬には吠えられたが・・・。  自宅に帰ると、まだ父と母は起きていた。家に帰るまでには泣き止もうと思っていたがダメだった。泣きながら帰ってきた一人娘に父と母は驚いていたが、「振られた」の一言で「ああ」と落ち着きを取り戻した。  母を捕まえて、色々愚痴をこぼした。人間ができている母は面倒くさい顔もせず、余計なことも言わず、私の話を「うん、うん」と聞いてくれた。  父は隣のリビングで直接会話には加わらないけれど、ソファに座り、私の話を聞いていた。一歩引いた感じはあるけれど、とても心配していてくれるのがわかる。  物静かで、言葉数は少ないけれど、笑うと笑顔が素敵な父と私は、実は血が繋がっていない。本当の父は、私が赤ん坊の頃病気で亡くなったらしい。生まれたばかりの赤ん坊を抱え、途方に暮れていた母を支えたのが、本当の父の友人だった、今の父らしい。  きっと二人には色々な思いや、出来事や、時には心無い言葉をかけられた事もあっただろうが、何も言わず、語らず、今を幸せに暮らしている。  写真でしか見たことのない父も、今そこにいて、私の事を本当の娘のように大切にしてくれる父も、どちらも大切な私の父だ。    一通り愚痴や泣き言を言って落ち着くと、日付が変わっていた。 「落ち着いたらもう寝なさい。明日朝からアルバイトでしょう」  少し眠たそうに、母が言う。 「それとも、明日アルバイト休む?」  私は力強く首を振った。 「明日は絶対休めない。休んだら、マネージャーに殺されかねない」  明日のアルバイトのことを考え、現実に引き戻された私は、寝る準備をしようを席を立った。  明日は6月で、大安の土曜日。私のアルバイト先である結婚式場の最も忙しい日だ。
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