第1話

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第1話

奇妙なウワサが、まことしやかにチマタでささやかれていた。 いわゆるオカルトや心霊をテーマにしたテレビ番組などに数多く出演して、顔の知れていたタレントまがいの霊能者たちが、ここ最近タテツヅケに3人も死んだ件に関してだ。 1人は、歓楽街(かんらくがい)を飲み歩いているときに、雑居ビルの外の階段を踏み外して転げ落ち、首の骨を折って死亡。 もう1人は、夜釣りに出かけたとき、渓流に飲み込まれて溺死(できし)。 3人目は、踏切の下りた線路内で転倒していたところを、深夜の貨物列車にはねられ轢死(れきし)。 すべて不慮の事故死として処理されたものの、どのケースでも現場に目撃者が全くいない状況だったために、世間にさまざまな憶測(おくそく)を招いたのだ。 とりわけ、インターネット界隈では、この3人の死になんらかの関連性を見出みいだそうとして、ニワカ探偵たちがいろめきたった。 SNSや大型掲示板を介して、虚実こもごもの情報がひっきりなしにあがった。 故人がそろって売れっ子霊能者だっただけに、そのほとんどが現実的な根拠の薄い、超自然・オカルト・都市伝説がらみの、ウサンクサい見解ばかりだった。 そんな中、某大型掲示板に出現したひとつのスレッドが、ひときわ世間の注目をさらい、半日とたたないうちに、俗にいう「まとめサイト」というやつに転載されまくった。 注目のスレッドの内容は、3人の霊能者たちが生前いずれも「同じ場所」を、各テレビ番組のロケとして訪れており、それらの番組が放送された後2~3日以内に死亡していた、というもの。 この共通する同じロケ場所というのが、北関東G県H山をのぼる旧道のはずれにある廃トンネルであった。 さかのぼること6年と数か月前。H山頂の湖畔のホテルのフロントスタッフとして働いていた若く美しい女性が、夜勤帰りに駐車場に向かって歩いていたところをストーカーに襲われ、そいつの車の助手席に押し込められると、くだんの旧道に連れ去られた。 廃トンネルに車を停めたストーカーは、さんざん殴りつけて女性の抵抗する力を奪ってから、身勝手な情欲の餌食(えじき)にした挙句(あげく)、車内にガソリンをまいて火をつけ、無理心中をはかったのだった。 闇に光る異様な炎をもよりの峠道から目ざとく発見したトラックの運送ドライバーの通報によって、消火作業は迅速におこなわれたものの、皮肉なことに、焼け跡から命を救い出されたのは、ストーカー男だけだった。 全身に重度のヤケドを負い、意識のほとんどないまま病院に運ばれ、かろうじて心臓だけが動いているような状態をずっと保ちながら6年あまり、つい最近になって、とうとつに心停止して死んだという。 男の死んだこの日というのが、くしくも6年前に彼自身が凄惨な凶行におよんだ日付と同じ……すなわち、彼に焼き殺された哀れな被害女性の命日にあたったため、風化しかけていた事件は、思いがけず再び世間に取り沙汰されることとなった。 いわく、「6年目の命日に、被害女性の怨念が殺害犯の心臓を止めた」のではないか、と。 おりしも夏休みシーズンで。ちょうどゴールデンタイムに心霊特番を組んでいた3つものテレビ局が、この凶悪異常犯の死去に便乗して、H山の廃トンネルのロケを特番の目玉コーナーとして企画した。 これらのロケに出演していたのが、最初に挙げた「連続不審死を遂げた3人の霊能者」だったのである。 どの番組も似たり寄ったりの、バラエティー色たっぷりの心霊スポット探検。 レポーター役のグラビアアイドルもしくはお笑い芸人に、霊能者がお守り役として同行するスタイルで、それぞれのロケは撮影されていた。 集音機器や録画機器などの些細な不具合、レポーターが突然に体調不良を訴えるなんぞの予定調和的なハプニングを散りばめつつ、ほどよきところで、霊能者が、 「全身ドロドロに焼けただれて血まみれの、髪の長い女が、おそろしい形相で我々をニラんでいます。いやはや、これは本当に危険な悪霊だ」 などと、鬼気迫る表情でのまたって撮影班を撤収させる結末まで、どの局も、ロケの内容は全然かわりばえしなかったが。 3人の霊能者たちが、同じ心霊スポットのロケに出演したテレビ番組のオンエアされた直後に、それぞれ死んでいったという奇妙な偶然の一致が、インターネットを介して拡散されているというわけだ。
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