第2話

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第2話

さて、3人の霊能者の連続不審死が話題になっているのを目ざとく察して、某メジャーな民放テレビ局……いわゆるキー局の、番組プロデューサーである帯礼(おびれ)杜夫(もりお)氏は、今度は、その「霊能者連続死」をネタにして「緊急心霊特番」を企画しようともくろんだ。 そのメインキャストとして白羽の矢を立てたのは、心霊タレント界のニューフェイス、納乃宮(ののみや)和音(かずね)という男。 この納乃宮(ののみや)氏、実は、帯礼(おびれ)氏の大学時代の同期だった。 実家が由緒ある古い神社だという風変わりな出自をエサにして、合コンなんぞで可愛い女の子に出くわすたびに、「背中に霊が見える」とか言って怖がらせては、「除霊」と称して最寄りのラブホテルにお持ち帰りするようなヤツで。 端正な甘いマスクと柔和な声の穏やかな語り口に、催眠術めいたヘンな説得力があるものだから、大学を卒業後、「心霊コンサルタント」などという胡乱(うろん)な肩書を名乗るようになったのが、かえって成功して、なんなら今では、ちょっとしたセレブ気取りだった。 ――ゴールデンタイムのテレビで大っぴらに知名度を上げれば、さらなる商売繁盛はお約束だろう。 かくして、納乃宮(ののみや)は、帯礼(おびれ)プロデューサーのオファーを、二つ返事で引き受けたのだ。 3人の霊能者の連続不審死を「心霊的アプローチ」から検証すると銘打った緊急特番のロケは、このような経緯で撮影された。 とはいっても、ロケの内容そのものは、つい先日テレビ放送されたばかり3人の霊能者(故人)当事者が出演した番組の二番煎(にばんせん)じにすぎなかった。 ロケ場所も同じならば、集音マイクが異常な雑音をひろったり、録画中の映像に乱れが生じたり、レポーター役のアイドルの女の子が体の不調を訴えて急にしゃがみこむなりヒステリックに泣きわめいたり……といった、マンネリともいうべきハプニングの数々まで、まるっきり一緒であった。 いかんせん、ハデな色合いの水干(すいかん)奴袴(ぬばかま)で神主風のコスプレを完璧に決め込んだ納乃宮(ののみや)のテレビ映りが、ビジュアルがウリの本職タレントを圧倒するほど、水際立っていた。 これが、夜の廃トンネルの奥に端然とたたずむや、漆黒の闇の中でスポットライトを浴びながら、 「うーむ、なるほど。……ここにいる地縛霊(じばくれい)は、女性の霊ではありませんよ」 と、開口一番、台本の流れと異なる見解を示しはじめたときには、さしもの帯礼(おびれ)プロデューサーをギョッとさせたが、 「ここに巣食う悪霊は、先日、病床で息をひきとったという、ストーカーの男の理不尽な怨念です。被害者の女性の魂は、この世にとどまることなく、死後すぐに天国に召されています。すべての苦しみから解き放たれて、……とても美しく幸せそうに……天使のように微笑んでいるのが、ハッキリ見えますからね」 と、例の説得力のある声色で、もっともらしく続ければ、業界慣れしたスタッフ一同さえ神妙な顔で、「なるほど」と感心するほどだった。 3人の霊能者の死は、彼ら自身がトンネルで霊視した「女性の怨霊」によるタタリだというのが、敏腕プロデューサーの、もともとのスジガキだった。 それを根底からくつがえす、想定外の検証結果。 ここに巣食うのがそもそも「女性の怨霊」ではなかったとなれば、それを霊視した3人の霊能者の霊視が間違っていたということになるわけで。 ――3人の名誉に、少なからずキズがつくことになってしまうが……。 しかし、みじんも悪びれる様子もない納乃宮(ののみや)の態度に気おされて、帯礼(おびれ)は、そのままロケを続行した。
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