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第3話
「最高のロケだったよ。みんな、ご苦労さん」
ロケバスに戻った撮影隊一行を、帯礼プロデューサーは、ホクホク顔で出迎えた。
とりわけ、納乃宮に対しては、手招きして自分の隣のシートに座らせると、
「局でも話題になるぜ、これは。ひょっとすると、シリーズ化できるかも。イケメン霊媒師が全国の怪奇スポット巡り、ってな具合に。オマエの迫真の演技は、妙に信ぴょう性があるからな」
と、クーラーボックスの中でキンキンに冷えていた缶ビールを、サッと差し出す気の使いようだ。
納乃宮は、おごそかな神主姿のままゴクゴクとビールをあおり、プハーッと満足そうにヒトイキついてから、さも深刻な顔つきを隣に向けた。
「いや、あれは演技じゃないぞ。あのトンネルはヤバすぎる」
「なんだと。本気で言ってるのか、オマエ」
「もちろん。オレは見たんだ。真っ赤に焼けただれた男の顔が、トンネルの壁一面に巨大に広がって、真っ黒なホラ穴のような目でこちらをニラんでいた。本当に。すさまじい殺意を感じていたんだ」
「またまた、そんなオオゲサな」
「オオゲサなら良かったがな。3人のインチキ霊能者どもの死が、男の悪霊のタタリのせいだと言ったのも、本当に、本音だ」
「おいおい、納乃宮……」
「いや、聞いてくれ。正直なところ、オレも身の危険を感じている。……もしも、オレの身に万が一のことがあったときは、ぜひとも世間に知らせてやってくれ。あのトンネルは絶対に関わっちゃいけない」
「本気かよ、オマエ?」
「特定の地に異常に執着した地縛霊の怨念というヤツは、時を追うごとにどんどん強力になっていくんだ。……だから、ネットでウワサを流したり、事件のことを検索するだけでも、なんらかの霊障が起こりうる」
納乃宮の整った横顔に浮かんだ深刻な不安のかげりを、息をのんで凝視しながらも、帯礼は、
――いかんせん、学生時代のコイツは、真顔でデマカセを言って女の子を食いまくってた、ナンチャッテ霊能者だからなぁ……。
と、どうしても半信半疑だったのであるが。
数日後、帯礼のもとに、納乃宮が歩道橋の上から転落し、落下地点を走行していた車に撥ねられたという知らせが届いたのだ。
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