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あれからフミさんは、味見を必要としない料理は作ってくれるようになった。トーストと目玉焼きとか、ご飯とインスタント味噌汁とか。毟ったり切ったりするだけのサラダも。
で、俺が食事している間、親父の書斎から持ってきた適当な本を開いて自分も食事をする。
「冷凍庫の本を食べつくしてしまったので、新しい本、買っていいですか?」
「白紙の本処分するの結構大変なんだけど、電子書籍とかじゃダメなの?」
俺の申し出に、フミさんはちょっとムッとした顔をした。
「どうやって冷やせっていうんですか?」
「あ……そっか」
いや、まてよ。
「フミさんて、そこまでして甘々な恋愛小説が読みたいの?」
「……美味しいんですよ? 樹さんだって、お気に入りの同じツマミをヘビロテして晩酌してるじゃないですか」
「うーん、そういう感覚なのかぁ……」
「じゃあ、ネット通販で美味しそうなのをポチりますので、お支払いはよろしくです」
「あのさー、フミさん? 最近、どこをよ……食べてるの?」
「Twitterなどを食してますがなにか?」
「うーん……」
言葉は生ものだ。つくづく思う。
「親父が残した本で処分しちゃって良さげなヤツも、ちゃんと食べてくれよ。あの部屋片付かないんだから」
「はい。りょーかいです」
フミさんはにっこり笑って、白紙になったページを閉じた。
とりあえず、というか、孤独を感じることは無くなった。
が、これで、いいのかなぁ。まぁ……いいのか。
俺は、フミさんが入れてくれたコーンスープを口に運んだ。
< 終わり >
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