ミステリはビター ロマンスはスイート

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 大学教授をしていた親父が死んだらしい。 「らしい」などと他人行儀なのは、親父とお袋は俺が中学に入る直前に離婚していて、お袋に付いていくことになった俺は、以降親父に会ったことは無かったから。お袋と別れてから独り身だった親父は、とある学会で地方に行った折に頓死したらしい。  親父側の親族と言うと、親父の弟くらいしかおらず、死後の始末に窮したその叔父に当たる人から俺に連絡が来たという寸法だ。    俺は、久しぶりに親父が生活していた家へ行った。小学生まで住んでいた家は、時が止まったかのようにそのままだった。俺ら母子が出て行ってから十年近い歳月が過ぎていたはずだが、家具の配置も家電もそのままだ。    一階の突き当りが親父の書斎兼仕事場だ。扉を開けると、さすがにそこは以前に増して仕事の資料や書籍が溢れかえっている。親父の研究の資料や書籍など、俺には全然わからない。このままでは全部ゴミにして処分するしかないので、親父のゼミの学生や大学関係者に必要なモノがあれば持って行って欲しいとお願いした。でも、あまり変わりばえしないところを見ると、たいして減らなかったらしい。    これだけの紙モノを処分するのに、一体いくらくらいかかるんだろう。お袋はとうに亡くなっている。俺は文字通り天涯孤独になってしまい、親父が残したこの家が残った。
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