ミステリはビター ロマンスはスイート

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 引っ越し荷物を二階におさめて一息ついた。一人でダイニングに座ってると、ヘンな心地がした。数年ぶりに、自宅に帰ってきた。そんな感覚だった。    実のところ、両親が離婚した理由を知らない。両親が険悪なムードであったことすら覚えがないから、この家に、いやな思い出など何一つないのだ。ところが、お袋は、親父のことを思い出すのも嫌……というか、親父がいたという事実を認めるのすら嫌なようで、関わり合ったことが間違いであったかのように振舞った。何があったのか知りたくても、母がそんな調子だったので結局聞き出せず。親父に電話しても、同じ謝罪の言葉を繰り返すだけだったので、やがて理由を探ることも諦めた。  我ながら、淡白なヤツだと思う。    家電は、自分が使っていた新しいものに粗方替えたが、家主が帰ってくるつもりで食材を納めていた冷蔵庫はどうしようもなく、今あるものを使うことにした。  冷凍ご飯がキッチリ並ぶ冷凍庫の隅に、フリーザーバッグに入れた包みが入っていた。整った四角い形に、何か食材の入った箱なのかと思ったら、中身を見て、俺はまた混乱することになった。    数冊の、ハーレクインロマンス。    親父が買ったのか? でも、なんでこんなところに?  いや、待てよ。濡らした本を復活させるときに、冷凍庫に入れておくといいという話を聞いたことがある。もしかしたら、この本は濡らしてしまった本なのかもしれない。    無理矢理そう思い込んで、本をフリーザバッグに元通り納め、冷凍庫の引き出しを押し込んだ。
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