ミステリはビター ロマンスはスイート

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 同じ屋根の下にいるという意味では、一緒に住んでいる範疇には入るのだと思う。  でも、あの日以降フミさんと顔を合わせることはなかった。  フミさんは、俺が仕事に出ている間に居間の掃除を済ませているらしい。どうやら食事はしないようだし、お風呂も必要ないようだ。結局、台所関係や水回りの掃除は自分がやることになる。フミさんと出会ったこと自体、夢なのではないかと思ったりもするのだが、わざと洗濯ものを出しておくと帰宅時には洗濯したものがきっちり畳んで置いてあるので、ああ、居るのか、と思い直す。この程度の存在なら、お袋も、親父と離婚するほど嫌がらなくても良かったのに。  諸々考えたうえで、実家に住むという選択をしたわけだが、いかんせん独り暮らしに一軒家は広すぎた。ワンルームのアパートなら、独り暮らしでも隣人の気配を感じることができたが、隣家と離れた一軒家だとそういうこともない。広い空間に独りというのは、孤独感を増すということに気が付いた。  引っ越してからすぐ、仕事は繁忙期に突入した。家と会社の往復だけの日々が続き、食事をつくる気力もなくなった。連日コンビニ弁当になってしまい、いい加減荒んでくる。  冷蔵庫の中も、買い物に行かないので飲み物しか入っていない状態。親父の作り置きや買っておいた冷凍食品もとうに枯渇していた。瑞々しい生ものが恋しくなった。    フミさん、ネットで買い物は出来るって言ってたっけ。そうか、ネットスーパーって手もあるんだなぁ。生ものはさすがに宅配ボックスってわけにはいかない。昼間に受け取りはしてもらえるんだろうか?  久しぶりに親父の書斎に入ってみた。フミさんが時々空気の入れ替えをしているのか、淀んだ感じはなく、ホコリもない。 「フミさん」  声を掛けると、奥の書棚の陰からフミさんが顔を出した。いつもの割烹着姿だ。 「お久しぶりです樹さん。何か御用ですか?」 「あの……」   俺はちょっと躊躇いがちにお願いを持ち掛けた。 「フミさんて、俺以外の人の前にも出られるんですか?」 「え?」    フミさんは怪訝そうな顔をする。それは……そうだよな。
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