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「実は、ネットスーパーで買い物したものを受け取ってもらえないかと……思いまして」
「ごめんなさい。それは無理ですね。宅配ボックスを使えるものならいいんですけど、生ものは……」
「やっぱだめかー」
「買い物がしたいんですか?」
フミさんは小首を傾げた。
「うん。休日は疲れちゃって昼まで寝てるし、たまには新鮮な野菜とか使って料理したほうがいいだろうと思って……」
「ネットスーパーの商品をコンビニで受け取れる方法もありますよ」
「え、……そうなんだ?」
「樹さんはいつも帰宅時途中のFってコンビニしかいかないから知らないのかもしれませんが、スーパーでピッキングした食品をコンビニで預かってくれて、スマホ決済で受け取れるサービスがありますよ。Sってコンビニで扱ってます」
「なんで……知ってるの?」
フミさんはこの家から出ることは無いはずだし、親父はTVを置いていない。
「私も一応、朝昼晩と、三食食べますから」
「?」
フミさんは親父の机に近付くと、おもむろにパソコンを立ち上げた。手慣れた様子でカチャカチャとタイピングしていたかと思うと、任意のサイトを表示して画面をこちらに向けた。
「パソコン操作なんて、樹さんの方が慣れてらっしゃるんでしょうからご自分でお調べになっても良いんですよ?」
「……いや、そんなサービスがあるなんて知らないし」
ちょっと不貞腐れてフミさんの顔を見ると、今知りましたね? とフミさんはツンと顔を上げた。なんだろう、この、取り付く島もない感じ。そのまま、踵を返して本棚に戻ろうとするフミさんを慌てて呼び止めた。
「あの! フミさんて、親父にもこんな感じだったわけ?」
「こんな感じ? どういうことでしょう」
フミさんは、怪訝な顔をして振り向いた。
「いや、あの、全然出てこないから……」
「……何が言いたいのかよく解りませんが、誠一郎さんは毎日この部屋に来ていましたから。樹さんは、ここに来ないから私に興味がないモノだと思っておりました」
「ええ? そういうことなの? そっちから出てくるのかと思ってた」
「なんで出てゆかねばならないんですか?」
「俺がフミさんに興味が無いから親父の書斎に入らないとするなら、逆に言えば、フミさんは俺に興味がないから出てこないってことだろう?」
「興味? 私から? そんな選択肢はありません。こちらから出ていくことであなた方家族の関係性を壊してしまったのに……」
フミさんは恨みがましい目を向けた。
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