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「よし、じゃあ高校講座を始めるとしますか」
「待ってました! やー、ほんとに助かるよ。ね、志保」
満面の笑みでそう言った梓に、私はひとこと「うん」とだけ返して、ふっと先生の顔を見た。
先生も普段通りの笑顔を見せてくれて、やっぱり嬉しそうだった。
私たちに勉強を教えることが、先生にとってもしたいことでありますように。
そう思った私は、本格的に勉強を始める前に、こう言った。
いや、こう告げた。
「先生。私たちはきっと、これからもこうしていっぱい質問に来るよ」
「うん。それは全然かまわないけど……」
先生は少しだけ困ったような表情でそう言った。
私が何を言おうとしているのか、予想できないでいるみたいだった。
「でも、振り返るんじゃないよ。前を見た先に、ここがあるの」
振り返らずに進んで。
先生はそう言った。
だから私は言われた通りにするよ。
振り返るんじゃなくて、楽しい高校生活を前向きに過ごすために、ここに来るんだ。
私たちはこれからも、先生の力を借りながら、先生と一緒に前に進むんだ。
先生が顔をほころばせながら「わかった」って言ってくれたとき、私は今日ここに来た最大の目的を果たすことができたと思った。
今日までありがとう。
そして、これからもよろしく。
そんな気持ちを胸に抱いて、私は梓に割り込む形で質問をするのでした。
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