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10月26日(土)・恭介
「あっ、先生、ちょっといい?」
出勤して早々、塾長に声をかけられた。
このタイミングとあのテンション、なにか仕事が舞い込んでくる予感がした。
「月曜日の夕方なんだけど、大丈夫?」
僕は無言で近づいただけなのに、いきなりそんなことを言われても。
この流れはいつものことだから、もう慣れてはいるけれど。
「夕方ってことは、五時過ぎですよね? たぶん時間ギリギリになっちゃうんですけど、それでもいいですか?」
「オッケーオッケー。じゃあ、よろしく」
「いや、来られるってだけで、まだ何もやるなんて言ってないですよ」
「またまたぁ。そんなこと言って、引き受けてくれるくせに」
そりゃそうでしょうけど、もうちょっと人の都合というものを気にしてもらいたいものだ。
僕は本当に、この人にいいように使われている。
「それで、何をするんですか? 月曜の夕方ってことは、小学生ですか?」
「いや、個別の体験」
「個別ですか? それはまた、珍しいですね」
「そう。ぜひ先生に担当してもらいたくて」
僕はこの塾で働くようになって今年で十年目になる。
大学一年生のときにアルバイトとしてこの仕事を始めて以来、楽しさや奥深さに魅入られて、気付けば長い間、非常勤講師としてここにいさせてもらっている。
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