10月26日(土)・恭介

2/3
前へ
/383ページ
次へ
 この塾は高校受験に向けた中学生をメインに集めていて、小学生に関しては受験をしないクラスが一つあるだけで、規模は小さいながらも、地元に根付いた個人塾だ。  基本的には集団授業がメインで、個別指導もおまけのように構えてはいるが、毎年数人いる程度だ。  そして僕は、ほとんど個別の授業をしたことがない。 「こちらの生徒さんです」  そう言って入塾テストを見せてくれたのは、受付の樋口(ひぐち)さんだ。  週三日、授業以外の事務仕事を手伝ってくれているパートの人で、とても親切で気が回る、なくてはならない存在だ。 「えっ、中三ですか」  もらった答案を見て、点数よりも学年に驚いた。こんな時期にやってくる中三生も珍しい。 「数学がなかなか、パンチが効いてるでしょ」  苦笑いを浮かべながら塾長は言った。  ちなみに塾長は英語の先生で、それ以外の科目に関してはまったく手を付けようとしない。 「この子が、月曜に来るんですか」 「そう。五時半から体験。先生の力で入塾させてよ」  完全に他人事だ。っていうか、僕の都合によらず体験に来ることは確定しているんじゃないか。  まったく、人使いが荒いというか、いい加減な人だ。憎めない人だとは思うけれど、もうちょっと配慮は欲しい。
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加