10月26日(土)・恭介

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 何はともあれ、僕がこの子に授業をするのは確定のようだ。  体験とはいえ、中三のこの時期だから、何をするのかちゃんと考えないといけないな。 「ちなみに、この子はどこを目指すんでしょうか」 「第一志望は松原東(まつばらひがし)だって」  サラッと言ってくれたけど、そんな簡単に受かる学校じゃないぞ。  松原東高校は、この塾から近くて、地元の子たちには人気の公立高校だ。偏差値は50後半くらいだろうか。  要するに、今のこの成績じゃ、なかなか厳しい。 「体験で何をするかって、決まってます?」 「いや、先生に任せるよ」 「なんでもいいですか?」 「任せた」  その信頼はありがたいけれど、もうちょっと言うことないのかな。  最初の手続きの段階でどういう話をしたのか気になるところではあるけれど、そこはあまり僕が立ち入るところではないと思っているからやめておく。  とりあえず準備をしよう。  まずは入塾テストの答案をよく見て、課題となる部分とすぐに直せそうなところを探す。  個別の体験は初めてだけど、最初はとにかく、とっつきやすさを重視しよう。  堅苦しい空気を出さないようにして、思ってたのと違うって言わせたい。  結局こうして正式な返事をしないまま引き受けてしまったわけで、今日の集団の授業の準備を差し置いて、僕は月曜の準備を始めるのだった。
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