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②
クラスが別れてしまって数日、校舎の窓から見えた何の変哲もない体育の授業風景に急に怖くなった。俺の傍に居ないラクが他の誰かと楽しそうにしているのが見えたのだ。想像した未来のラクの姿がそこにあった。
今は休み時間の度に会いに来てくれるけど、段々来なくなってしまうかもしれない。そしてこのままクラスが別れたように俺から離れて行ってしまうかもしれない。
そしてその別れは自分で思っていたよりももっと早いのかもしれない。
頭では分かっていた事だった。ラクとの別れも覚悟したし、そうなるべきだと思っていたはずだった。
それが実際に目にする事で急に現実味を帯びて――、覚悟なんてちっともできていなかったと知る。
その日の帰り、そんな事を考えて暗く沈んでいたらラクが言ったんだ。
「ちゆ、僕たち付き合う?ただの幼馴染みだとおかしいかもだけど、恋人なら休み時間の度僕がちゆの所に来るのも、四六時中僕の事考えててもおかしくないんだよ? 会えない時間も僕の事を考えてたら寂しくないでしょ? それに恋人だったらこれから先ずっと一緒にいられるんだ。いいと思わない?」
そう言って小首を傾げ笑った。ラクの言葉は、俺が抱えていた不安に対する答えのように感じた。本当はずっとずっと探していた。ラクの傍に居続けられる方法。考えても考えてもそれは見つからなくて、俺は無理やりにでも諦めようとしていたのに、ラクは簡単に答えをくれた。本当にラクはすごい。
やっぱりラクは俺の王子さまだ。
でも本当に……いい、のかな……?
俺はいつの頃からかラクに対する気持ちが普通の友だちに抱くものとは違うと気づいていた。一番嬉しくて一番怖い存在。
だからラクからこう言われて、俺たちの関係が変わってしまう事に少しの戸惑いはあったけど『これでいつかは離れる未来』がなくなるんだと嬉しくなった。 ずっとずっと一緒に居てもいいんだ。
さっきまであんなに怖かったのに、嬉しくて、恥ずかしくて、そっぽを向きながらもこくりと頷いたんだ。
これでずっと一緒に居られる。魔法はまだ続いている。
そんな始まりだったけど、俺たちは確かに恋人になった、はずだ。
幼馴染みとしてはもう10年以上の付き合いになるけど、恋人としてはまだ始まったばかり。多分今が一番浮かれててはっぴーな時期なんだと思うんだけど、実際は付き合う前と何も変わらない。
手を繋いだりハグしたり、そんな事は小さい頃からしていて特別な意味はない。恋人じゃなくてもできる事だ。
付き合ってする事といえばキス、それにその先の……。
どちらも俺たちはした事がなかった。する気配すらもなかった。
俺たちが付き合うようになってなんとなく調べた『男同士が付き合うとする事』について。ずらりと並んだ文字の中に紛れるようにして出て来たアレ。
恥ずかしくて細かい所は見ずにすぐにウインドウを閉じてしまったから分からないけど、ちらりと見えた多分される方の気持ちよさそうな表情。それが頭から離れなかった。それで分かったんだ。
俺、こんな見た目だけど――実はする方じゃなくてされる方がいいんだ。
――――ラクはどっちなんだろう?
もしかしてラクもされる方? だとしたら……俺たちの関係っていつまで経っても先に進む事はないんじゃないか?
大好きなラクと恋人になれただけで嬉しい。
その先の事を望むのは贅沢なのかもしれない。
そうは思っても俺の中の深い深い所がズキズキと鈍く痛むのを止める事はできなかった。
ラク、ラクはどっち――?
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