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キミのことがすきでスキで好きすぎて①
こないだの件は無事誤解も解けて、解決できたはずだった。
オレの千雪を好きな気持ちは一応は伝えたし、千雪もあれから2,3日は嬉しそうにしていたんだ。
だけど、しばらくして千雪はオレと一緒に帰らなくなった。
ただでさえクラスが別れて『千雪』が足らないのに……。
オレは何か失敗したんだろうか?
それでもその時のオレは千雪がまたいつものように何かおかしな事を考えて暴走しているだけなんだと思っていたんだ。
二人の姿を見るまでは。
日曜日、オレは久しぶりに朝から千雪と遊んで平日の千雪不足を補うつもりだった。オレたちは恋人同士、千雪も意識してくれているようだしそろそろ次の段階に進んでみてもいいのかもしれない。勿論慎重にするつもりだ。まずは指先にキスをするとか、そういうところから慣らしてみよう。
連絡も入れず千雪の家を訪れると、呼び鈴に応えたのは千雪の母親で、千雪は出かけていないと言う。こんなに朝早くから一体どこに?行先について尋ねてみても、知らないという事だった。
何か連絡が入ってたのかもとスマホを見てみても千雪からの連絡はなかった。
オレはこないだの件もあるし、誰かに攫われてしまったのかもと胸騒ぎを覚え、千雪を探してあてもなく歩き回った。
大量の汗でシャツがべっとりと肌に張り付いて気持ち悪いのに身体はひどく冷たくて、千雪を見つける事ができず焦りばかりが募っていった。
千雪を探し始めてどのくらい経った頃だろうか、偶然やった視線の先に千雪を見つけた。千雪の無事な姿にほっと安堵の息を吐き、駆け寄ろうとして足が止まる。
千雪とあの時の……千雪を抱き込んだヤツが一緒に居た。
千雪がオレじゃないヤツと楽しそうに笑っていた。
――なんだ……これ……?
千雪はオレの恋人で、千雪はオレの事が好きで、千雪はオレが必要で……。
なのに今、オレに内緒でオレじゃないヤツと笑い合っている。
千雪より大きな身体の男らしい顔の男。二人で立つ姿はオレなんかとより全然お似合いで、そんなものを見せられてオレはこないだみたいに千雪をオレのだと言う事はできなかった。
千雪はオレの事が死ぬほど好きなんだと思っていた。
千雪もオレと同じでオレ以外に関心なんか持たないと思っていた。
少しの誤解はあったけど誤解が解けた今、オレたちはちゃんと想い合った恋人同士だと思っていた。
――――のに。
オレは千雪に声をかける事なくそのまま家に帰った。
そしてその後は千雪の事を徹底的に避けた。
別に嫌いになったわけじゃない。嫌いになれるはずがない。
オレの千雪への気持ちは何があっても変わる事はない。
だけど、千雪のオレへの気持ちが変わってしまったというのならオレはどうすればいいのか分からないんだ。
もしまた千雪があいつと一緒のところを見てしまったら、今度は何をするか分からない。オレはみっともなく千雪に縋って泣くんだろうか?それとも千雪はオレのだとあいつに殴り掛かるんだろうか?
どちらにしてもあまり恰好のいいものではない。
そんな醜態を晒してこれ以上千雪に嫌われたくはなかった。
オレの何がいけなかったのかな……。
*****
千雪を避け続け一ヶ月が過ぎた。
楽しくもないのに笑い、意味もないのに誰にでも親切にした。
できるだけいつもと同じように過ごすようにした。ただそこに千雪がいないだけであとはいつも通り。
そうする事に意味なんかないけど、そうしていないと一歩も動けなくなりそうだった。千雪を失ってしまえばオレはこんなにも脆い。
千雪がいてくれたからオレは何だってできたし、何にだってなれた。
オレは千雪の王子さまでいられたんだ。
今のオレの情けない姿を見て千雪は何て思うだろうか。
きっともう好きだとは言ってくれないだろう。
千雪の心変わりも仕方ないのかもしれない。
オレは自虐的な笑みを浮かべた。
ふと人が近寄って来た気配がして、恐る恐る顔を上げると、
「本谷くん、これ……誕生日プレゼント。よかったら貰って欲しいんだけど……」
差し出された綺麗にラッピングされた包み。
同じクラスの……誰だったか――。その子は恥ずかしそうに頬を染めていた。
そんな姿を見てもオレの心は何も感じない。
――――今日はオレの誕生日、か。
こないだまでは早く大人になりたかった。
早く大人になって千雪を色んなものから守りたかった。
だけど、もう……。
「ありがとう……」
にっこりと微笑み、プレゼントを受け取ろうと立ち上がった途端世界が揺れた。
最近の寝不足のせいなのか立ち眩みだ。
そのまま倒れてしまうと思ったがそうはならなくて、誰かに支えられるのを感じた。
意識を手放す直前、ふわりと懐かしくも愛おしい香りを嗅いだ気がした。
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