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ゼンブボクガヤッタ。まさか「殺った」ということなのか。
「君は僕と別れるかい?」
私は何も答えない。何も、答えられない。そんな私を見て、彼は目を細めた。まるで愛しいものを見つめるように。
私の頭に手を置く。意識とは別のところで、私の肩が勝手に跳ねた。口も勝手に開いた。
「冗談やめてよ。さすがにやりすぎ。笑えないよ」
はははははと、平仮名を並べるみたいに笑う。笑えないと言いながら笑うなんてへんだよな、と冷静な私が思っている。
彼は、私の反応を気に留めていないようだった。真剣な顔つきで、でも目は虚ろで、どこか遠くを見つめている。私の発言を否定も肯定もせず、落ち着いたトーンで話し出す。
「大丈夫。安心してほしい。僕は、《愛する人間》には手を出さない。だって、生きているだけでじゅうぶん魅力的なのだから。僕が殺すのは、自分のことしか考えていないような、きたない人間だけだ。さっき見せた写真、綺麗だったろう? 傲慢であればあるほど、死ぬ時が一番輝くんだ。尊大な人間が死を目前にした時、恐れ、慄き、貪欲に生にしがみつこうとするあの表情。事切れる直前の絶望した顔。物言わぬ肉塊の美しさ。たまらないね。興奮する」
怒張する彼の股間が、言葉の信憑性を高めている。彼の視線が私に向けられた。私は体を動かせなくなる。ピンで留められた、昆虫の標本のように。
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