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階段を上がると、夕仁くんが旭さんの部屋のドアを開けながら待っていた。
旭さんの部屋にお邪魔する。そこは何かが書きこまれた紙切れ(たぶん将棋の勉強に使う資料だ)がたくさん散らばっていて足の踏み場もないほどだった。
「ピィ先輩、びっくりしたでしょう? あれは試合に負けた日の恒例行事なんです」
「そうそう。母さんはお説教のためなら地球の裏側からでも舞い戻ってくるんだよねぇ」
夕仁くんはベッドにあぐらをかき、旭さんはごろりと横になっている。
のんきなのは、ふたりが言うとおりにこの状況がいつものことだからなのだろう。
「掃除していいんですか? 見られたくないものとか、隠さなくて大丈夫ですか?」
「いいよ、テキトーに掃除して。おれ、そういうのは紙媒体じゃないやつにしてるから」
旭さんがひらひらと手を振る。何が、とは聞けない。
紙切れを踏まないように気をつけながら一枚一枚拾っていると、スマホをいじっていた夕仁くんがふと顔を上げた。
「そういえばピィ先輩って真昼兄さんに説教したんですよね」
あたしの背中に「説教」という言葉の矢が刺さった。その話題は今触れられるとかなり痛い。
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