第1ラウンド VS旭

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 エアコンの風でカーテンの裾が揺れると、そこに映る太陽光もちらちらと踊る。  旭さんは「うん」と「いいえ」の間くらいの唸り声で曖昧にその質問を濁した。 「真昼に対しては、ね。あいつは兄弟の中で特別だから」 「真昼が特別?」 「父も母も仕事で遠くにいるって言ったでしょ。どっちも元バレー選手で今は監督をしてる。だからうちの両親はバレーを続けてる真昼にだけ厳しいってわけ。うらやましい話だよね」 「うらやましい? 厳しくされるのにですか?」  シーツのほつれた糸を指でひっぱりながら旭さんが頷く。 「おれも最初はバレーをやってたんだけど、母さんに辞めさせられたんだ。『あんたは運動音痴でセンスがないから、別の輝ける場所を見つけなさい』って。だからバレーで輝ける真昼がうらやましい。将棋なんかいくら強くたって意味がないしね」 「そんなことないですよ。旭さんは史上六人目の中学生プロデビューだって友達が言ってました。それってバレーがうまいっていうのと同じくらいのことじゃないですか」 「うちでは違うんだよ。うちでは、バレーボールをやっていることが大前提なんだから」
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