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あたしが黙ると、旭さんはまたいつもみたいにへにゃんと笑った。
「ごめん、変な話した。とにかくうちでは当たり前のことだから、ピィちゃんは気にしないで」
じゃあどうしてそんなにつらそうな顔をするのだろう。どうしてそんなに自分を下げるような言い方をするのだろう。
空気を切り替えるように旭さんが鼻歌を歌い始める。明るい内容の童謡だ。
あたしはそれ以上何も言えなくなってうつむいた。切ない気持ちが胸の中をぐるぐると渦巻いていたけれど、それをうまく言葉にできなかった。「そんなことないですよ」って言ったって、旭さんはきっとあたしをうまく丸めこむだろうからだ。
何かが割れる甲高い音がする。夕仁くんの制止の声と、真昼の怒鳴り声。
真昼が言ったことは間違っている。そう思っていたけれど、心がぴりぴりと痛む。
インターハイで、真昼は確かに勝ちたかったのだろう。でもそれ以上に「勝たなきゃいけなかった」のかもしれない。
旭さんの鼻歌が階下の物音と交じり合う。明るい歌のはずなのになぜだか妙に胸がしめつけられた。
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